4 みんな少しずつ変わっていく
放課後。チョコ作りの材料を買うために、カバンを家に置いてから由美子と近所のショッピングモールに集まる約束をした。モール内のスーパーが待ち合わせ場所だ。
自転車を置き、いつもより甘い匂いの漂う専門店街を通りぬけてスーパーに着くと、あざやかなタンポポ色のシフォンスカートを履いた由美子が、板チョコの飾りを引っ掛けたピンク色のツリーの前で手を振っていた。
作るのはいつものトリュフだ。生クリームにこのシーズンだけ置いてある大入りの割りチョコをカゴに入れる。失敗したときのことを考えて、チョコは多めに用意した。
四人で作っていた時の半分しかない材料をエコバッグに詰めて自転車置き場へ戻る途中、イベントスペースにできていたラッピングコーナーが目に入った。
「由美ちゃん、これかわいくない?」
吸い込まれるように歩み寄り、虹色に光る布のラッピングバッグを手に取った。
そばには絵に描いたような真っ赤なギフトボックスがあり、その向こうにはひらひらとふち取りのあるリボンや、中のものを割れないように入れるふわふわまでそろっている。緩衝材っていうんだっけ?
見ているだけで胸がときめく。
由美子は微笑みを浮かべ、可愛らしく首をかしげた。
「そうだね。でも、だれにもあげないなら、いらないんじゃない?」
「まあ。かわいいと思っただけだし……」
商品を元の場所に返すと、近くにいたポニーテールの女の子が、じっとあたしを見つめているのに気づいた。
目が合った瞬間、彼女のキラキラと光を集める桃色のくちびるが笑みをつくる。
「かなえ。ああ、やっぱりかなえじゃん! 由美子も」
「えっだれ……あ、杏?」
声でやっとはっきりした。ぱっと見ただけじゃわからないくらいに、ふんいきが変わっている。
光る星をかたどった金色のクリップで髪をまとめ、小麦色の頬にオレンジのチークをさしている。
小学生の時からおしゃれに興味深々だったのは知ってたけど、まるで別人だ。
杏はあたしの手を掴み、万歳させるように振り上げる。
「凛花、凛花、由美子とかなえ!」
「なにウソ、マジで? 久しぶり!」
たなの向こうから顔を出した凜花の白い頬にも、ピンクのチークが広がっている。くちびるも不自然に真っ赤だ。
「わあ。卒業式以来だよね?」
「そうじゃないかな。ちょうど今日、二人の話をしてたところだよ。まさかこんなところで会うなんて」
杏の問いに答える由美子の声が遠くに聞こえる。
杏も、凛花も、思いっきり化粧してる。トイレで鏡を見てた一軍女子みたいに……いや、それよりもっと、かなりハデかもしれない。
「バレンタインきっかけで再会するなんて、私たち、運命の赤い糸で結ばれてるのかもね」
「やぁだ。赤い糸なら由美子たちじゃなくて、王子とがいいっ」
杏がサムいことを言うと、凛花は口をとがらせる。
王子って言葉を久々に聞いた。凛花が六年間好きだと言い続けていた、高木さとしというイケメンのことだ。よく大葉たちといっしょにいた、つかみどころのない感じの男の子。
六年の秋、卒業を待たずに転校して行ったんだけど。
「凛花ちゃんは、今も変わらず高木くん一筋なんだね」
由美子の声が心なしかあきれたように聞こえる。
見た目は変わったけど、赤い糸とか王子とか、二人のしゃべる内容は小学生のころからほとんど成長していない。
凛花は祈りを捧げるように胸の前で指を組んだ。
「そうよ。離れても愛は変わらない……って言うかさあ。かなえ、なにそのダボっとしたカッコは! もう小学生じゃないんだから、ちっとはなんとかしなさいよ」
そうかと思うと、今度はオニのような顔であたしのパーカーを引っつかむ。すそが引っ張られて、胸の形がくっきり浮かび上がった。
「ひゃっ……何すんの」
「背は高いし、ボンキュッボンだし。素材はいいのに、もったいない」
凛花は人を上から下へとなめるような目で見た。思わずすそをつかむ手をふり落とす。
「変な目で見ないでよ」
「ってか、いまどきボンキュッボンとか言う~?」
あたしが怒るのと同時に杏が腹を抱えた。
人にダメ出しするだけあって、凛花は流行りの透け感のあるニットを身にまとい、天パの髪を白いリボンのカチューシャでふんわり留めた天使のような姿をしている。
「かわいいでしょこれ。一目ぼれしたんだ。つけてみる?」
ひそかに見とれていたのに気づいたのだろう。凛花は、カチューシャに手を当てた。
「いい! あんたみたいなかっこう、好みじゃないの。あたしは」
目をそらし、自分のみつあみを両手で押さえた。
同じような天パだと思っていたのに、あたしだけがあのころと変わらない。手入れの行き届かない、子どものままだ。
凜花はあっそ、と流して由美子のエコバッグに目を移した。
「あ。今年もやるんだ。チョコ作り」
由美子はバッグを開いて、二人に中を見せてやる。
「うん。またトリュフにしようと思って。二人もいっしょにどうかな」
「え。やるよ。当たり前じゃん」
「ってか、なんでさそわないのよ。今年はないのかと思ってた」
当然のように乗ってくる二人を見てホッとする。
あたしの考えすぎだった。さっさと二人の連絡先を知っている友達につないでもらえばよかった。
由美子がバッグからスマホを取り出す。
「私たちもスマホ買ってもらったんだ。早速ラインでつながろう」
スマホを手に顔を寄せ合うと、いいにおいがした。
杏たちみたいにあからさまじゃないけど、由美子の頬もくちびるもほんのりピンク色をしていると気づいた。




