14 かまってほしくてしたことだから?
「それにしてもだよ。かなえは、なんであんな上級生に言われたことを真に受けちゃったの。そりゃ傷つくし怖かったとは思うよ? でも何年も気にして、それでらしくなくなっちゃってたなんてさ。勝手にかなえは私たちより大人だから、かわいいは卒業してかっこいい系に行くんだと思ってた」
杏がめずらしく難しい顔をしている。
急に持ち物や服の趣味を変えたのがそんなふうにうつっていたとは。
思えば、上級生に言われる前から、あたしは家族が言うほどかわいくないんじゃないかと自覚しはじめていた気がする。
色の白いは七難かくすということわざ。天使の輪のできるストレートヘアがみんなのあこがれ。女子はおしとやかでか弱くて、反対に男子は活発でたくましくないと、という理想。
あたしは人より大きくて、色黒で、天パ。バスケではその辺の男子よりも強いのだ。理想とはほど遠い。
そこに、あのゴリラ女がガンと入り込んで抜けなくなった。
「なんだかんだ、同じクラブの先輩ではあったしさ。ふつうに悲しかったんだよね」
「言ってくれれば、なぐさめたのに!」
杏はハグを求めるように両手を広げた。
あの時、今みたいにみんなを頼れたら、あたしの中からゴリラ女を追い出せていたのかもしれない。
「……ありがと」
「かなえちゃんは普段から男子ともよく話すし、ノリがいいから、それで気を引けると思ったのかもね」
安心した由美子の何気ない言葉に、杏はさっと顔色を変えた。
「なにそれ。一方的にひどいこと言われたんだよ? なんでかなえがそいつらの気持ちまでわかってやんなきゃいけないの」
「えっと……ごめん。かなえちゃんにわかってあげてって言いたいわけじゃないの。ただ、相手は軽い気持ちで思ってもないこと言っちゃったんじゃないかなって、思っただけで……」
由美子は困ったように何度も瞬きして目をふせる。
そうだ。きっとゴリラ女なんて本気で言ったんじゃないよって、あたしをなぐさめたかっただけなんだ。
杏は自分を落ち着かせるように、ふうっと大きなため息をつく。
「ごめん。由美子がそんなつもりじゃないのはわかってる。でもさ、好きな子にいじわるするとか、男子はバカだからねとか、周りにそんな対応されたら私はもうどうしたらいいのって思う」
ふだんにニコニコしている杏も、何かしら苦悩してるんだろうか。
男子はバカだから、自分たちとは違うから、なにを言われても気にしちゃダメだって自分を守ろうとする気持ちがあたしの中にもある。
パパも弟もあたしたちと何も変わらないと思ってるはずなのに、そんな思い込みはいつどこからきたんだろう。
凛花がうーんと伸びをした。
「まーね。この世界、傷ついたら負けだから。言われる側で考えてるみたいだけど、杏だって軽い気持ちでやってるよ。グループライン作る時、ショッピングモールでかなえをイジったことなんかすっかり忘れてたじゃん」
「忘れてないよ!」
「帰り道、あんなに怒んなくてもいいのにって愚痴ってたじゃん。それが由美子の言う軽い気持ちで言ったってことじゃない?」
「それは……たしかにいつものノリだったし、かなえだから許してくれるとは思ったけど」
由美子は黙り込んだまま、授業中数式を解いているときのように真剣な顔をして凛花たちのやり取りを聞いている。
もしかして、凛花たちが平気でグループラインに誘ってきたのも、あたしの言ったことを気にしていなかったから?
「ちょっと待って。あたし一緒にチョコ作りたくないとまで言ったんだよ」
「さっき、イヤなことをがまんしながら付き合いたくないって言われるまで、私は何も悪いと思ってなかった。ちょっとくらい怒られても、別に許されてると思ってたし、マジギレされたらそれこそあんな怒んなくても、冗談なのにって思ってた」
あまりに正直にぶっちゃける凛花に、返す言葉が見つからない。
絶句するあたしを正面から見て凛花が頭を下げた。
「ごめん。私たち、かなえに甘えてたんだ」
「あっ、私も。なんか、いっぱいごめん。考えなしでごめん~~」
慌てて杏も顔の前で手を合わせる。
ずっと難しい顔をしていた由美子が口を開いた。
「私も、今まで相手は軽い気持ちで言ったことなんだから、重く捉えない方がいいって考えてきたけど……ほんとはずっとガマンしてたんだって気づいた。自分の気持ちより相手を優先することで、周りを甘やかしてたのかも」
話せて良かった。
あたしにはちゃんと聞いて受け止めてくれるこんなにも素敵なともだちがいる。
「うん。わかってくれて、うれしい。ありがとう」
あの日、うずくまっていた小さなあたしを、みんなが迎えに来てくれたような気がした。




