13 お姫様だった
四年生の時に上級生との間で起きたことを打ち明けると、凜花は盛大にため息をついた。
「なあんだ。結局、ももちゃんがかなえの王子様だったって話か」
「ごちそうさま~♪」
杏がニヤニヤ笑ってあたしをこづく。
「あーもう。そういうんじゃなくて」
否定しながら、でも以前みたいなカッとなるような感じが湧いてこないことに気づいた。
杏や凛花のイジりがなくなったわけでもないのに。不思議なことだ。
「でも、百瀬くんって勇気あるね。上級生相手に」
由美子が感心する。本当にそうだ。家の前でごちゃごちゃうるさかっただけかもしれないけど、なかなかできることじゃない。
「まーそうよね。百瀬もだいぶからまれたし。結局、助けてくれたのはレトリバーだけどね」
「またぁ、素直じゃないな。かなえがももちゃんを好きになった理由がこれではっきりしたわ」
「好きじゃないってば。イジるのやめてって言ってんじゃん」
あたしの指摘に凛花の目が点になり、ああ、これもイジりか……とつぶやく。
「なんかしゃべるの怖くなるな。あれもこれもダメなのかって考え出したら、な~んもしゃべれない。こんなの、ただのノリだよ?」
「冗談って言われても面白くないって、凛花だって言ってたじゃん」
「そうだけどさー」
凛花はため息をついた。
「ただのノリだよ」と凛花のパパを擁護した兄の声が重なる。
ふしぎだ。パパのイジリに傷ついた凛花がイジリをノリだとごまかす側に回る。
パパを怒ってくれたあたしに憧れたと言いながら、兄のやることをまねてしまうのはどうしてなんだろう。
あれから百瀬にイジワルばっかり言っていたあたしのように。
「ただのノリでも冗談でも、イヤなものはイヤ。凛花のことは好きだけど、イヤなことをがまんしながら付き合いたくはない」
キッパリ言い切って、はじめて気がついた。
あの日、百瀬が「なんでだまってんの」と言ったのは、ゴリラ女のお前ならやっつけられるだろうなんて意味じゃなかった。
立ち向かえないことをなじられたんじゃない。
ヤツらの言葉なんか聞くな。悪意からちゃんと自分を守ってやれってことだったんだ。
あたしをお姫様のように思ってくれた家族がしたように。
相手の言葉を真に受けて、すっかり自分がゴリラ女であるかのような気がしていたあたしには、素直に受け取れなかったけれど。
少なくとも百瀬は、あたしをゴリラ女だなんて思ってなかった。
「ほんとにやめてね」
あたしはもう自分をゴリラ女だなんて思わない。
すねたように「わかった」口をとがらせる凛花の横顔を見て思う。
あたしを長らく素敵なお姫様だと信じさせてくれたのはママやパパ、それから凛花たちの視線だった。
その肝心のパパがメデューサだとイジり、ママまで一緒に笑っていたなら。そんな両親を兄がかばい、家の中にだれも味方がいなかったなら。凛花は、どうやって自分は素敵なんだって信じればいいんだろうか。
家の中にモデルのいない凛花は、イジる以外に人と関わる方法を知らないのかもしれない。




