欲
魚をまな板に置く。
包丁を握る。
見つめあう。
ピリッとした、緊張した気配が漂う。
私が軽く息をつく。
「怖いなら見なければいいのに。」
ふるふると首を降り、ぶるぶるふるえながらも、そこを動こうとはしない。
エラに包丁をかけ、グッと力を入れる。
ガタンッ
と大きなおとがして、ごろりと頭が転がる。
私はスプーンにもちかえる。
丁寧に目の縁にスプーンをあて、目を傷つけないよう細心の注意を払いながら、神経が集中する部分までゆっくり推し進める。何かに触れる感覚がすると、一秒と待たず力を込める。
ぶちぶちっ
と小気味良い音がする。
自然と口角が上がる。
震える空気。
私は気にせずに目を堪能し、口に含み、飲み下した。
「おしまい」
私が言うと、風船から空気が抜けるみたいに、空気が緩んだ。
「いつみても、怖い。」
「だから、みなければいいのにって。」
「みたいんだからしょうがないだろ。」
「うん。わかってる。ごめんね。」
べつに、お前が怖い訳じゃない。そう、少しずれたことを、すねたように言う彼を、すこしばかりいとおしく思う自分がいた。
高校にはいって二年がたつ。
わたしは、誰にも打ち明けるはずのなかった秘密を、彼に打ち明けてしまっていた。
それは、彼のことが好きで、自分のことを知ってほしいから、では全然なかった。
単なる不可抗力だった。
(彼の目が美しすぎるゆえの)
彼と付き合いだしてしばらくたった頃。
お互いの家に遊びにいく程度の仲になった頃に、私の欲求が大爆発した。
抉りたい。
抉れないなんておかしい。
あの目を飲んでしまいたい。
いつもは噛まないけれど、咀嚼するのもまた良さそうだな。
もたげた欲求は、熱を失わず、私の中枢神経を犯し、行動に異常を含ませた。
私は彼に(彼の目に)スプーンを突き立てようとした。
怖い映画を見ながらアイスを食べている途中のことだった。




