彼
彼は、私と同じクラスの人間だった。
おそらく、小学校から一緒で、家も割りと近かった記憶がある。
そして、私の大好きな、真っ黒のすんだ瞳を持っているひとだった。
彼(厳密に言えば、彼の目ということになる)は私の理想そのものだった。
日本人は、黒といっても、焦げ茶色や茶色の光彩の人が多いのだけれど、彼のは真っ黒といって差し支えなかった。黒ければ黒いほど、光を受けて輝きを増す。泣かなくても常時潤んだように見える瞳は、なかなかに官能的だった。
彼は、私を好きだといった。
小学校の頃からずっと、と付け足した。
私は首をかしげた。
目のことは好きでも、人のことに興味がなかった私は、人を好きになる、人に好きになられる、ということが理解できなかった。
彼は、つきあってください。と小さな声で締めた。
やっぱり、よくわからなかった。
だから、はい、とうなずいた。
最低だ。
それから彼と付き合うことになった。
人との関わりに興味がなかった私は、友達と、恋人との境界線をどう引けばいいか、決めかねていた。
付き合うことを了承したものの、付き合う、とは何かわからなかった。
けれど彼の目が美しいことだけは、私を納得させるほどの事実だった。
だから、まあいいか。と思ってしまった。
やはり最低だ。
彼と付き合いだしてした、恋人らしいこと(と世間一般で定義されているらしいこと)といえば、毎日一緒に帰るとか、週末に一緒に遊びにいくとか、友達とあまり変わりがないことだけだった。
手を繋ぐのも友達なら結構していたし、抱きつくことも友達とする。
やはり友達と恋人の境界線はガタガタで、私は早々に線引きすることを諦めた。
必要性も感じなかった。
彼はどうして私なんかを好きになったのだろう。
もっとかわいくて、(外見も内面も)彼のことを好きになってくれる女の子はいっぱいいるはずだ。
こんな、どこの馬の骨とも知れない、眼球フェチを好きになってしまった彼のことを不憫に思った。
それならば、私は彼をふるべきだったのだけれど、他人のことなど省みない私は、断る理由がない気がしたのだ。これは完璧に惰性だった。
ああ。最低だ。
意外にも、彼との仲は長く続いた。
彼と私は似たところが多かったからだ。
好きな本、好きな音楽、好きな漫画、好きな食べ物、嫌いな食べ物、何よりも大きかったのは、価値観が似ていたことだろう。
学力もほぼ一緒で、将来の夢も似たり寄ったりだった。
そうなると必然的に進学先も一緒になり。
気がつけば、彼と同じ高校に入学していて、気がつけば、彼と付き合って今年で4年目を迎えようとしていた。




