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代筆屋の私が、なぜか自分を探す手紙を依頼されているのですが  作者: トークン
自分宛ての手紙を書きました

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9/14

第九話「お茶を飲みました」

 市場の近くの小さな茶屋に、二人は座っていた。


 マクシミリアンは紅茶ではなく、甘いミルクティーを頼んだ。レナータは少し驚いた。冷たい印象の辺境伯が、こんなに甘そうな飲み物を選ぶとは思わなかった。


「甘いものがお好きなんですか」


「ああ」と彼はあっさり認めた。「子供のときからだ」


「お似合いではないですね」


「言うな」と彼は少し眉をひそめた。「自覚はある」


 レナータは思わず小さく笑った。


 マクシミリアンも、わずかに口元を緩めた。それは初めて見る、本物の笑顔に近い表情だった。


「代筆屋」と彼は言った。


「はい」


「君は、なぜ代筆屋を始めた」


 レナータは少し考えた。普通の代筆屋なら、生活のため、と答えるだろう。でも彼にはそれ以上の何かを話したくなった。


「両親が手紙の名手だったんです」


「ほう」


「父と母は、婚約期間中に四百通近い手紙を交わしました。私はそれを全部読んで育ちました。両親が他界した後も、その手紙だけは捨てられなくて——気がついたら、私自身が書ける人間になっていました」


 マクシミリアンは静かに聞いていた。


「素晴らしい両親だな」


「はい」


「君の文に温度があるのは、その手紙のおかげか」


 レナータは顔を上げた。


 温度——という言葉に、心臓が小さく跳ねた。彼は、自分の代筆を読んだことがあるかのような口ぶりだ。


 いや、当然だ。半年前の手紙を読んでいる。あれが温度のある文だと、彼は思っている。


「マクシミリアン様」とレナータは聞いた。「なぜ、その書き手を探していらっしゃるんですか。最初に伺ったとき『礼を言いたい』『確かめたいことがある』と仰いましたが」


 彼はミルクティーを一口飲んだ。


「次に話そう」


「次、ですか」


「ああ。今夜、店に行く。そこで話す」


 マクシミリアンは席を立った。茶の代金は彼が払った。


 レナータは茶屋に取り残された。


 彼の隣にいた時間は、たった四十分だった。


 でもレナータは——自分の心臓の速さを、否定できなくなっていた。

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