第七話 「妹に相談しました」
「お姉様、また考え込んでいらっしゃいますね」
屋敷の小さな食堂で、ミラがスープを差し出しながら言った。十六歳の妹は、姉のことをよく見ている。
「ええ、少しややこしい依頼があって」
「あの辺境伯様の件ですか」
「……どうしてわかるの」
「お姉様、辺境伯様の話をするとき、声がいつもより少し高くなります」
レナータは咽せた。
「事実だけ話すわね」と、なんとか体勢を立て直した。「マクシミリアン様が探している手紙の書き手——おそらく、私なの」
ミラがスプーンを止めた。
「お姉様」
「ええ」
「すぐにお伝えするべきです。『あの手紙、私が書きました』と」
ミラの目は真っ直ぐだった。
「待って、それは——」
「お姉様、嘘をついている状態ですよね、今」
「嘘ではなくて」とレナータは口ごもった。「ただ、まだ確証が——」
「お姉様の控えが一致したのでしょう」
「……ええ」
「それは確証ではないですか」
レナータは黙った。妹の正論に、返す言葉がない。
「でもね、ミラ」とレナータは言った。「代筆屋の正体は秘密なの。それが知られたら、もう商売ができない。今、私の代筆業が町で評判になっているのは、書き手が誰か分からないからでもあるのよ。匿名性が、価値の一部なの」
「それは、わかります」
「だから、辺境伯様にだけ正体を明かすわけにもいかない。明かしたら、彼が他で漏らさない保証もないし」
「辺境伯様、そんな方に見えますか?」とミラは静かに聞いた。
「……見えない、けれど」
「でも信用しきれないから、悩んでらっしゃるんですよね」
レナータは頷くしかなかった。
「お姉様」とミラは続けた。「私、思うんですけど」
「何」
「その辺境伯様、お姉様のこと、気に入っているんじゃないですか?」
レナータは咽せた。今度はスプーンが手から滑り落ちそうになるほどに。
「ち、違うわ。私はただの代筆屋として依頼を受けているだけで」
「毎日通ってらっしゃるんでしょう?」
「進捗確認のために——」
「進捗を確認するのに、毎日通う辺境伯様、いますか?」
ミラの正論は、今夜も鋭かった。
「お姉様」とミラはスプーンを置いて言った。「気持ちが揺れているのは、お姉様の方だと思います。だから言い出せないのではないですか?」
レナータは何も言えなかった。
その夜、レナータは寝る前に控えをまた開いた。
マクシミリアンが探しているのは、書き手の自分だ。
ミラは、自分がマクシミリアンに惹かれていると言った。
——どちらも、正しいのかもしれない。
怖かった。




