第三話「手紙を見せてもらいました」
翌日の午後、マクシミリアンが再び店を訪れた。
「これだ」
差し出されたのは、一通の手紙だった。三つ折りの紙、少し角が擦れている。よく読まれた跡がある。
レナータは手紙を受け取った。広げた瞬間——
指先に、小さな引っかかりが走った。
『あなたが先日、市場の角で立ち止まったとき、私は反対側の道から見ていました。あなたが手に取ったのは赤い林檎で、それを優しく置き直して、青い林檎を選んだ理由を、私はずっと考えていました。あの日のあなたは、熟したものよりも、まだ熟さないものに目を向ける人でした——』
レナータは文を追いながら、徐々に呼吸が浅くなった。
——この、文体。
知らない手紙ではある。書いた覚えのない手紙だ。でも、文の運び方が、どこか自分の癖に近い。「あなたが」で始まる文の置き方、感情を直接書かずに行動の描写で包む手法、最後に問いを残す閉じ方。
全部、自分の癖だ。
でも——
「いかがか」とマクシミリアンが言った。
「……素晴らしい文章ですね」とレナータはとっさに答えた。「これは、確かに代筆の手によるものだと思います」
「やはりそう見えるか」
「はい」
「書き手の見当はつくか」
レナータは少し迷った。
ついた、と言いたかった。文体が自分に似ている、と言いたかった。でも、それを言うと面倒なことになる気がした。代筆屋は他にも町にいる。似た文体の書き手もいるかもしれない。確信もなく自分だと言うのは、軽率すぎる。
「町には他にも代筆屋がおります」とレナータは答えた。「文体だけで断定するのは難しいです」
「そうか」
マクシミリアンの目が、ほんの少し細くなった。
「では、その書き手に向けて手紙を書いてもらえるか。彼または彼女が、私を見つけ出してくれるような手紙を」
「自分宛てに書く手紙、ということですか」とレナータは確認した。
「そうだ」
レナータは手紙を返した。手の中にあった違和感が、紙と一緒に手元から離れていった。
——代筆控えを、後で確認しよう。
心の中でそう決めた。
「お任せください」とレナータは言った。「数日中に書き上げます」
「待っている」
マクシミリアンが帰った後、レナータは店の奥の引き出しを開けた。
そこには三年分の代筆控えが並んでいた。レナータは依頼を受けるたびに、依頼主の特徴と手紙の冒頭を控えに残している。万が一トラブルがあったときのためだ。
半年前のページを開く。
——三月十二日。依頼主:商人の若い男性。「市場で見かけた女性に手紙を書きたい」。書き出し:「あなたが先日、市場の角で立ち止まったとき」
レナータの手が止まった。
——あった。
でも——
レナータは控えを何度も読み返した。確かに自分が書いた手紙だ。書き出しの文も一致する。でも——「商人の若い男性」が依頼主だったはずだ。それが、なぜ辺境伯の手元にあるのか。
あの男性は、この手紙を誰に渡したのか。それとも——渡された相手こそが、辺境伯だったのか。
何かが、おかしい。
レナータは控えを閉じた。閉じてもなお、手の中に重みが残っていた。




