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崩壊世界におとぎのうたを  作者: あらまき


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三話 何者でもない私を変えるために


 かちゃっ……という静かな音を拾い、『メリーさん』のスリープモードは解除される。


 本体の基本機能が復帰し、状況整理を開始。

 しかし、カメラは床に密着しており、何も映さなかった。


 作業の音と呼吸から、音の主が不審者ではなく、リコであると判断。


 何故、リコの起床には反応しなかったのか疑問が現れる。

 小さな物音でも反応するように設定していたはずなのに。


 どうやら物音ひとつ立てず目覚め、ベッドという名の残骸から起き上がったらしい。

 その用心深さこそが、彼女がこの過酷な世界を生きて来たという証なのだろう。


 カチャリ、カチャリと金属音が静かに響く。

 音の間隔から、リコがハンドガンを解体しメンテナンスをしているのだと特定出来た。


 リコの持つハンドガンはリボルバータイプの物でかつ、女性の手に合わせた非常に小さな物。

 装弾数は六発と基本性能は満たしているが、火力や命中精度はあまり優れない。

 リコ曰く"身の丈に合った武器"とのことで不満はないそうだ。


 火器の調整中に声をかけるのは危険であると判断し、メリーさんは沈黙したままリコの様子を伺い続けた。


 しばらくすると、聞こえてくる音が変わり始めた。

 金属音はそのまま続いているが、布の擦れる音が混ざり、やがて呼吸も徐々に荒くなっていく。


(訓練……ですか)


 一般市民である少女が銃を所有し、分解清掃を当たり前に行い、ストイックに訓練まで行う。

 それはメリーさんが持つ常識からは大きく逸脱している。


 しかし、それを口にすることはない。

 そうしなければ生きていけない世界に"変わってしまった"ということは、メリーさんにだって十分に理解できていた。


 しばらくして……。


 リコの訓練が終わったと判断してから、メリーさんはリコに声をかけた。


『おはようございます。リコ』


「ふぇっ!? お、おはよう。もしかして起こしちゃった?」


『構いません。リコの起床に合わせ起きるよう調整していたのですが、よほど静かな起床だったようですね』


「起こしちゃ悪いと思ってね」


『ありがとうございます。ですが、機械である私にそのような気遣いは必要ありません』


「そう? じゃ、次からは起きたらすぐ挨拶するね」


『お願いします』


「あいあい。お願いされました。ふふ」


『何か、面白いことがありましたか?』


「んーん。ただね、おはようって言える人がいるのは良いことだなって」


 そう言って、リコはタブレットを優しく手に取った。




 本音を言えば、メリーさんともっとお話ししていたい。

 恩返しもそうなのだから、単純に会話が楽しいから。


 一人じゃないのは、とても安心出来る。

 それに、あの鈴が鳴るような美しい声を聴くと妙に心が安らぐ。


 自分は声フェチだったかとちょっと悩んじゃったくらいに。


 けれど、ゆっくりできない事情がリコにはあった。


 事情というか、"懐事情"が。


「ちょっとさ、今後の展開……ってほど決まったことじゃないけど、相談聞いてくれる?」


 もぐもぐとパンを食べながら、リコは尋ねた。


『構いませんが、食事の後では駄目でしょうか?』


「大丈夫。もう食べ終わった」


『三分の一だけ……ですか? 小食だとしても、もう少し食べるべきかと……』


「普段は良く食べる方なんだけどねー。ちょっとけちりたい事情があるの」


『それは、相談に関係する話ですか?』


「うん。結論を言っちゃえば、出来るだけはやくカルナト村を離れようと思ってる」


『事情を聞かせて頂けますか? もし私という存在が足かせとなっているのなら、手放すことを推奨します』


「ううん。メリーさんは関係ないし、絶対手放さない。そう言う話じゃなくて、この村に嫌な空気が流れてるって話」


『発言の意図が理解出来ません。嫌な空気というものを詳細に解説して頂けるでしょうか?』


「うぃうぃ。と言っても、大した話じゃなくて、この村がきな臭いってだけなんだけどね」


 昨日探索者に混じった時、探索者たちが妙に大人しかった。

 探索者とは本来チンピラのような下等な荒くれ者が集まる仕事のはずなのに。


 マナーがマシになっているのだから、良いことと言えば良いことなのだろう。

 けれど同時に、探索者たちの身なりが妙に汚く、やせ細っていたことが気がかりだった。


 更に言えば、軍人たちみなが妙に高圧的だった。

 探索者たちだけでなく、村人にも。


 そして最後のトドメとして……。


「なんかさ、村のいたるところで村長の陰口が聞こえるんだよね。かなり陰険で憎しみ混じりの。とどめに『アレ』……」


 リコは窓から遠くを見つめた。


『すいません。私の性能ではあまり遠くは見えません。何があるのか口頭で説明していただけるでしょうか?』


「豪邸だよ。他の家はさ、むきだしの錆びた鉄筋が混じったコンクリートなのに、一軒だけだだっ広い"畑付きの庭"に大きく綺麗な家がある」


 この荒れ果てた世界において、汚染のない野菜というのは最高級品である。

 それが、隠されることもなく当たり前のように並んでいた。

 こんな小さな村に。


『……為政者……いえ、独裁者ですか』


「っぽい感じ。確証はないけど。だからさ、あまり長くいるとトラブルに巻き込まれそう」


『そういう事情なら賛成ですが、村の外というのは安全なのでしょうか?』


 メリーさんは既にこの世界の情勢をおおよそ理解していた。


 ここは山賊が当たり前に出現するなんて頭中世レベルの末法文明であるのと同時に、蛮族が銃やバイクで武装する世界である。


 完璧なるポストアポカリプス。

 旧文明にあった火が出る改造車で砂漠を乗り回す世紀末映画と大差ない状況と言っても良い。


 そんな中で、リコ一人出るというのは正直自殺行為に等しいのではないかと危惧していた。


「外はね……当たり前だけど、めっちゃやばい。だから数日の間、稼ぎながら準備を整える。その間に同行出来る旅人さんが居たり、軍の遠征に乗せて貰えないか考えながらね」


『提案ですが、車両があれば状況は変わるでしょうか?』


「そりゃ変わるだろうけどさ、私の場合は意味がないかな」


『何故でしょうか?』


「私、運転出来ない」


『……盲点でした』


「あ、もしかして、メリーさんって運転出来る感じ?」


『期待させてしまったのなら申し訳ありませんが、今の私にその機能はありません』


「そかそか。まあ元々物ねだりだし、あったらあったで色々リスクもあるしで無理かな」


『リスクですか?』


「集団に襲われても守りきる力がない限り……ね」


 そう言って笑ってから、少しだけ雑談をして、リコはタブレットをしまい、部屋を出て依頼を探しに行った。




 村の中を歩き、目的の店の前でリコは足を止める。


 メリーさんとのちょっとした会話をしながら恩返しについて考えて、一つ、思いついたことがあった。

 恩返しにはならないかもしれないが、もしかしたら役に立てるかも……。


 そんな事情のお試し実験感覚でリコはその店……ジャンクショップに足を運んだ。


 狭い店の中には所狭しと壊れた道具がぶら下げられている。

 シリンダーのない銃や重機関銃のストック部分のみ。

 他にも錆び切ったナイフや包丁なども。


 余裕があれば修理用にハンドガンのパーツを買っておきたいが、今回はそれがメインじゃない。

 リコは目的の物を見つけ、その箱に向かった。


 小さな四角い金属パーツやケーブルなど、用途がわからない道具が乱雑に突っ込まれている。

 文字通りのジャンク品である。


「メリーさん。もしメリーさんが使えそうな物があったらかるく振動して」


 こそこそと、小さな声でリコが呟くと了解を示すよう、バッグが一度ぶるっと震えた。


 にこりと微笑んだ後、リコは小さなパーツを手に取った。


「これどう?」


 バッグの隙間に見せてみるも、反応がない。


 頷き、違うパーツを取って見せる。

 それを何度もくり返し、震えた数が十回を超えたあたりでリコはじゃらじゃらとパーツをまとめ、店主の前に見せた。


「くーださい」


「……あんた、その外見でメカニックなのか?」


 店主は怪訝な表情をリコに向けた。


「天才美少女メカニックです」


 きりっとした表情でイマジナリー眼鏡を動かすリコに、店主はジト目の呆れ顔となった。


「……ま、客なら何でも良い。払いはどうする?」


「『9パラ』だと幾つ?」


「……合わせて五十だな」


「はぁ!? ボリ過ぎでしょ流石に! ジャンクでその値段はおかしいって!」


「だが、あんたにとってはジャンクじゃないんだろ?」


「……ぐぬぬ。二十! それ以上は出さない!」


 睨むようなリコに対し、店主は非常にフレンドリーな笑みを返した。


「おう。良いぜ。それで売った」


「……え? 良いの?」


「天才美少女メカニック様が相手だからな」


「……なんか釈然としないけど、はい。ニ十発」


「はいまいど。嬢ちゃん、サービスとして良い話してやるから、ちょっと聞いていきな」


「何その死ぬほど疑わしい言い回し……」


「まあ素直に聞いとけ。……この村じゃ『9パラ』……というか武器関連の需要が異常に高い。他所の倍くらいで取引されている」


「……えっ?」


「だからまあ、そこのジャンクボックスなんかの適正はパーツ三つで弾丸一つってところかな。それでどうなるかって言えば、おや? 嬢ちゃんは四、五発程度で済む買い物をニ十発も払ったって寸法になるじゃないか! いやぁ不思議だなぁ」


 ケラケラとしたその笑みは、文句なしに小ばかにしたものだった。


「むぐぐ……」


「ま、次は焦って足元見られないよう気を付けな」


「……あーもう! 二度と来ないわよこんな店!」


 ぷんぷんと怒りながら、リコは店を後にする。


 店主はニヤニヤとしながら、その背に手を振った。




 色々と"準備"を行い、リコは昨日に続き軍拠点に赴いていた。


 探索者以外の依頼がないというわけではない。

 ただ、リコにはちょっとした考えがあった。


「……またお前か」


 眼鏡で小太りの男が、どこかうんざりした様子でリコに声をかけてきた。


「なんか、今日は妙に少ないですね」


「なんかも何も、戒厳令で遺跡の大半は通行止めだ。貴様は"事情"を知っているだろうが」


 小太りの男は呆れ顔で呟いた。


「あー。それで結局、あれはどうする感じです?」


 尋ねてはいるが、正直想像は出来る。

 けち臭い独裁者が、危険のあるお宝を前にしてどうするかなんて考えるまでもないだろう。


「貴様には関係ない。……いや、待てよ? 貴様は知っているんだから、戒厳令に付き合わせる必要もないのか……」


「ん? 何です? 危険なことはしませんよ?」


「危険じゃない遺跡などありゃせんわ」


「遺跡の危険なら自己責任だけど、人間同士の危険なトラブルはお断りですねー」


 男はリコをジロリと睨んだ。


「…………やっぱり、昨日の馬鹿は演技か」


「えへへ、パンご馳走様です」


「まあ良い。そのくらいこすい奴の方が都合が良い」


 男はリコの顔に、ばさっと丸めた紙を投げつけた。


「わぷっ。なんですかもう……」


 ちょっと嫌そうな顔をしながら、リコはその紙を開く。

 それは地図だった。


「これ、遺跡の地図です?」


「そうだ。赤丸が今回の戒厳令が敷かれた危険区域で、青丸が探索者に許可が下りた活動範囲だ」


「ちっさ。青丸ちっさ。これだけ?」


「ああ。そうだ。これだけしか"市長"の許可が下りなかった」


「……市長? ここ、カルナト"村"でしょ?」


「そう呼ぶよう"厳命"されている」


「……なんか、苦労してるそうだねぇ」


「さてな。で、だ。もったいないと思わんか? この隙間の部分」


 男は赤丸と青丸の間である範囲をぐるりと指でなぞった。


「もったいないですねぇ。まだ枯れてないんでしょ?」


「ああ。地下一階層はともかく、それより下はまだ枯れてない。というわけで、貴様にこの辺りの許可を出してやる。好きに潜れ」


「……良いの?」


「構わん。多少煩いかもしれんが危険も何もない。……ただし、赤丸の部分には絶対に入るな。射殺されても文句は言えんからな」


「あいあい。じゃ、この辺りを潜りたいと思うけど良いです?」


 リコは青丸の傍である範囲を指差した。


 邪魔になる赤丸から離れていて邪魔になりにくい場所。

 同時に、戒厳令がなければ多くの探索者が向かうであろう、そこそこの穴場。


 つまり、『軍の邪魔をしないよう心掛けつつ、がっつかずそこそこの利益で満足します』なんてリコの空気を読んだ意思表示である。


 リコの提案に男は少し考え込む仕草を見せた。


「……貴様、俺の部下になる気はないか? 遺跡漁りよりはマシな生活程度なら保証してやるぞ」


「お気持ちだけ受け取っておきますー」


「ま、そうだろうな。探索者なんて奴らはそういう生き物だ」


 男はどこか納得したような笑みを浮かべ、リコから地図を奪い取る。

 後はもうリコに挨拶どころか顔も向けず、無視するよう男はそこから立ち去った。


(まあ、別に私探索者にさえ拘りなんてないんだけどね)

 

 まだ何者にも成れていないリコは、自分を表す言葉を持たない。

 たぶん、一番近いのは旅人ニュービー。


 その何でもない旅人から"何か"に成長する一歩として、リコは遺跡に向かうバスに向かった。





 鋼の床を踏み越え、金属の扉を抜け、階段を降りて。

 リコは再び、遺跡の中に戻って来た。


 静寂が包み込んでいる。

 近くに人がいないから、反響の音さえ感じない。

 流れる風の音を耳に出来る程、静かだった。


 普通なら、遺跡の発掘は早い者勝ちとなる。

 けれど、今この区域は規制がかかっているため人の気配がまったく感じない。


 とは言え、あの食わせ物そうなおっさんのことだ。

 どうせ自分以外も同じように特別扱いしている。


 それでも少人数であることは間違いない。

 だからこれは紛れもない、ボーナスタイムである。


「というわけでメリーさん。ちょいとお尋ねしますがこの遺跡って何がわかる? 何の用途で使うの? 黒魔術?」


 バッグに声をかけると、返事が返って来た。


『いいえ。ここは駐車場です』


「あー。確かに私達が会った場所はそうだね。でもさ、それにしては仰々し過ぎない?」


『その指摘は適切です。ここは要人専用の多人数シェルター機能を内蔵した秘匿駐車場として設計されております』


「要人用?」


『国の重鎮などですね。そしておそらく、一度も使用されずに破棄された場所です』


「ふぅん。……どうしてそこにメリーさんはいたの?」


『申し訳ありませんが、私のデータにそれはありません。私自身が、その情報を知りたいと思っています』


「そか。ごめんね変なこと聞いて」


『構いません。ですが、探索を集中した方が良いと提案します』


「そだね。じゃ、しばらくは無言でお願いね」


 呟き、リコは足音を減らし早足で進んでいく。


 多少の警戒はあるが、本当に多少。

 集団の探索者は別の場所に集まり、近くでは軍も暴れている現状は、限りなくリスクの低い状態だった。




 やはり、ここが駐車場というのはリコには信じられなかった。

 地下階層三つに加え、隠し通路の先には見果たせぬくらい広い車庫があった。


 各階層の部屋は合計百を超える。

 しかも、まだ見つかっていない階層や部屋は残っている状態で。


 駐車場というのは、車をただ置いておく場所のことだろう。

 それにしては広すぎる。

 これならホテルとか工場と言われた方が、まだ理解できた。


 とはいえ、メリーさんが言うのなら正しいのだろうが。


 三十分ほど早足で直進し、リコは目的の場所に到着する。


 そこはコンピュータールームという、機械を設置する場所……らしい。

 断言出来ないのはリコに知識がないのもそうだが、単純にそうは見えない状態となっていた。


「こりゃ酷い」


 あまりに酷くて、つい言葉が漏れる。


 持ち出せるものはすべて持ち出され、邪魔な物は全部破壊されきって。

 地震……いや、もう爆弾が中で爆発したんじゃないかというくらい部屋の中はぐちゃぐちゃになっていた。


「残骸くらいはあるだろうけど……私の狙いはそっちじゃないんだよねー」


 がさごそと瓦礫を避けながら、壁伝いに移動しそれを探す。


 そして……。


「おっ。あったあった。ねえねえメリーさん。これさ、繋げたりするんじゃない?」


 そう言ってリコはタブレットを取り出し、カメラに『壁の穴』を見せる。

 あまり詳しくないが、こういった部屋になる謎の穴は機械を繋ぐことが出来ると、人づでに聞いたことがあった。


『もしかして、ジャンク屋での買い物は……』


「そ。メリーさん繋いだら何か出来ないかなって。というわけで、機械知識を持っている相棒を求めているんだけど、どこかにいにゃいかにゃー」


 タブレットの画面が、ぱっと切り替わる。

 小さなメリーさんが『機械知識、あります』という看板を持って、ぴょんぴょんと一生懸命飛び跳ねていた。




 指示されるまま、リコはジャンク品を組み立てていく。

 十個ほどもパーツを買ったものの、結局使ったのは二本のコードと、タブレットにコードを繋ぐためのパーツ一つだけだった。

 というか、四角いチップやケースなど、よくわからない部品を使って改造する技量が、今のリコにはなかった。


 次に買うときは、もう少しわかりやすい物を買おう。

 そう心に誓いながら、リコは繋ぎ合わせたコードをタブレットに接続し、反対側を壁の穴に差し込んだ。


「これでいける?」


『可能だと思いますが、電力、時間等のリソースによりあまり複雑な情報を取得することは叶いません。また幾つまで調べられるかも不明です。まずは何を調べてみましょうか?』


「あー。電力は回収できないのか。正直それが目的だったんだけど……」


『申し訳ありません。このケーブルでは電力補給は難しく、またそもそもの話ですがこの区域は電力が届いておりません。ですが、調査は可能です』


「なら、メリーさんが調べたいことを調べて。何でも良いから」


『……私を活用するためにケーブルを用意したのでは?』


「いや、メリーさんの役に立つかなって。だから気にせず好きにしてー」


『リコ、あなたの善性は素晴らしいものなのは間違いありません。ですが、私は機械です。繰り返しますが、心はありません。そんな私を――』


「だがことわーる! 私は私のしたいようにするのさ。というわけで適当によろしく。餅は餅屋ってね。餅食べたことないけど」


『……サブプロジェクトに餅の取得を入れておきます』


「良いね。やりたいことリスト。そういうの私好き」


『サブプロジェクトを独立させ、やりたいことリストに変更。他に何かあれば教えて下さいね』


「はーい!」


『――終了しました。電力が危険水域に移行しましたのでケーブルの解除をお願いします』


 リコがケーブルを引き抜くと、タブレット画面にマップが表示された。


『独自判断で、探索に価値のある部屋の情報を取得しました。どうぞ役立てて下さい。三か所ありますが、どこに向かいますか?』


「おや、ありがとね。それで、何が手に入るか聞いても良いかい?」


 画面が切り替わり、三か所のメリットデメリットが表示された。


 A地点は近場で荒らされた痕跡が強いものの、稼働する監視カメラがまるまる残っている。

 それ一つでこの崩壊世界では良い値段で取引されるだろう。


 B地点は少々遠くあまり荒らされていないがめぼしいお宝は見えない上にカメラも壊れかけている。

 とはいえ、レアメタルなどそこそこの値が出そうなスクラップがゴロゴロと転がっているため、数を集めるならこちらの儲けはAより高いだろう。


 C地点は遠く、ここに向かえば他の箇所に向かえなくなり、また見える範囲でお宝と呼べるものもほとんどない。

 ただし……。


『C地点には、私と貴女にとって役立てる物がある可能性が高いです。無論、故障していなければですが』


「ならC一択だね」


『金銭的な意味で言えば望ましい選択ではありませんが、よろしいのですか?』


「うん。私とメリーさんのためになるって聞かされたら是非もないし、なにより……」


『なにより?』


「なんか、浪漫じゃん。二人のためなんてさ」


 そう言って、リコは満面の笑みを見せた。




 三人組の男たちがいた。

 彼らは遺跡荒らしと呼ばれる、非合法の探索者である。

 今回は探索者が少ないと聞いて忍び込み、こうしてこっそりと横流し品を探している。


 そんな彼らは、突如聞こえた足音に対し静かに警戒態勢を取った。


 もし軍の見回りだったら大変面倒なことになる。


 けれど、そこに現れたのは小柄な黒髪の少女。

 最悪の場合殴って犯せば言うことが利く、なんてことのない小娘だった。


「ありゃ同業者さん。どもども」


 妙に気さくな態度に毒気を抜かれながら、三人は小さく会釈する。

 相手が妙な気を起こさないなら何もする必要はない。


 そう思っていたのだが……。


「ところで三人さん。ちょっと相談があるんだけど良いかな?」


 何故か少女の方から声をかけてきた。


 こいつ大丈夫か?


 三人は怪訝な表情を浮かべる。

 自慢じゃないが、三人のガラは相当悪い。


 自分が女で同じ状況なら、一目散に逃げる。

 絶対逃げる。


 だというのに、何故こいつはこうも堂々としているのか。

 こいつはどれだけ馬鹿なんだ。


 三人は呆れ果てていた。

 そして同時に、その呆れが三人の能力の低さを証明していた。


 この世界を長く生きる者ならば、そこで思考を停止させてはならない。

 多人数相手に堂々としているなら、その理由が間違いなくあるからだ。


 老若男女なんて差異は関係ない。

 この世界では、相手を侮った奴から死んでいく。


 だから、三人は遺跡荒らしとしてだけでなく、人としても底辺だった。


「……なんだ?」


「ちょっと幸運なことに宝の地図ならぬ当たりの可能性が高い場所の情報が手に入ったわけなんですよ」


「それを俺たちに話す理由は?」


「手に入った情報は二か所。でも時間的に私の遅い足だと一か所が限界なんだ。つまりそういうこと」


「――なるほどな。だが、その宝の地図が本物だという保証はどこにある?」


「ないよ。何もない。だからさ、格安特化の大サービスってわけよ。あと、好きな方を選ばせてあげる。残った方に私が行くから」


 そう言って、少女は両手に一枚ずつ紙を持って見せた。


「肝心なことを言ってないぞ。……いくらで俺たちに売るつもりだ?」


「ジャンクパーツとかない?」


「ないな」


「んじゃ、鉛虫以外のご飯で。日持ちする奴なら尚歓迎」


 男たちは顔を見合わせ、思考する。


 偽物の可能性が高いとはいえ、ちょっとした飯程度で宝くじが引けるのならそう悪くない取引だ。

 襲って奪うよりもよほどリスクが少ない。

 いや、むしろ襲われるリスクを減らすため、少女はこちらに有利な提案をしたと捉える方が自然だろう。


 だが、小娘の言う通りというのも癪である。


 三人の一人、一番細い男はニヤっと笑った後、二人にアイコンタクトを取る。

 その後、そっと挙手をした。


「わかった。提案に乗ろう。二つのうち、選ぶのはこちらで良いんだよな?」


「もちろん。そうでないと信じないでしょ?」


「当然だ」


 男は近づき、少女の両手にある紙を何度も見比べる。


「じゃあ、右手の方を貰おうか」


「こっち?」


「あ、いやすまん。俺から見たらだから左手だな」


「こっちだね」


「ああ。これで良いか? ところで、こっちが出すのは谷宿肉(たにやどにく)を干した物だが文句はないか?」


「おや、食べたことがない奴だ。もちろんオーケーだよ」


「じゃあ取引成立だな」


 そう言って男が干し肉を吊るした紐を少女に見せると、少女の動きが一瞬止まった。

 両手が塞がった状態でどうやって取ろうか悩んだのだろう。


 そんな少女のことなど気にもせず、男は干し肉を宙に放り投げた。


「おっとっと」


 少女が落ちて来る干し肉をキャッチしようと身体を動かす。


 その瞬間だった。

 影に隠れていた二人の男は少女の腕から紙を二枚とも奪い獲り、三人はあっという間に遠くに逃げていった。


「悪いがどっちも貰うぜ! あんたは諦めてそこらへんを漁ってな!」


「あー! ちょ、ちょっと待って! ズルいよ! ……なんてね」


 姿が見えなくなって、少女は――リコはべっと舌を出した。




 どっちにしても、リコは両方渡す予定だった。

 わざと盗ませるか、もしくはこそっと紙を落とす形で。


 何なら、ここに来るまでに同じ内容を書いた紙を幾つか残している。

 誰かが拾ってそっちに誘導するために。


『リコ、どういう意図なのか尋ねてもよろしいでしょうか? 彼らを支援するにしては少々回りくどいように思えるのですが……』


「ん? あ、もしかしてメリーさんが頑張ってくれた情報をこんな形で使うのは気分悪かったりする?」


『いえ、どのような形で使ってくださっても構いません。ただ、意図がわからないので』


「まあ、色々な意図はあるけど一番は撒き餌だね」


『つまり、A、Bの二つの情報を故意にばらまいたと……』


「うん。たくさんばらまいたから、運が良ければ賑やかなことになるでしょ? あと、一応程度だけどご機嫌取りの意味もあるよ? 本当にお宝を手にした人がいたら、私の顔を覚える。それでご縁繋ぎをして次の取引に生かすとかって感じで」


『……なるほど。理解はしきれませんが、かなりしたたかな動きなのは把握しました』


「普通だよ。普通。と言っても、そろそろ時間的にもリミットが近いし裏工作はここまでかな」


 リコは小さく呼吸を整え、軽やかに駆け出した。



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