第7話 あなたは七日の後に死ぬ
「あなたの感想が聞きたくて部屋に呼んだわけじゃない。そんなことより、話を始めましょう。私とあなたの、大事な話を」
ミラは仏頂面でこちらを見つめていた。わざわざこんなところに呼び出してなんだろうか。愛の告白ってことはなさそうだし、さては礼でも言うつもりだろうか。
そしたらどうしてやろうか。撫でてやるか抱きしめてやるか、気にすんなよお互い様だろ、ってな。絵面を想像して思わず笑いそうになった。こいつとそんなのは似合わねえか。
ミラは言った。
「要点を伝えましょう。このまま行けばあなたは七日の後に――死ぬ」
「……は?」
ベンバドルは、固まった。
死ぬ? 誰が? なんの話だ?
「見なさい」
ミラは自らのシャツのボタンを上から外していって、胸元をこじ開け、胸骨のあたりをベンバドルに見せつけた。
膨らみの間、心臓部に月を模したような痣があった。先端と先端が触れそうなほどに歪曲した三日月。そこだけが異様に白く、まるでなにかに侵食されているようだった。
ミラは近づいてきて、こちらの胸元にも手を伸ばした。
「お、おい、なにしやが」
「動かないで」
抵抗する間もなく、シャツとベストは強引に開かれ、胸元が露出する。ミラはそこを凝視する。ベンバドルも視線を落とす。いったいなんだって――これはなんだ?
左胸に赤黒い痣。ピンポン玉ほどの真ん丸の球体、その球体を中心にして七つの線が放射状に広がっている。手で触れるとザラザラした感触、痛みはない。偶然できた痣ではなく、なにかを模して刻まれたような、これは。
「これは呪い。日ごとに太陽は姿を変え、最後に黒点だけが残る。落日のとき、刻印はあなたの心臓を食い破る」
「呪いだと……? わけわかんねえこと言ってんじゃねえ」
振り払うようにミラを押しのける。ステップを踏むように一歩下がったミラは、無表情でベンバドルを見上げ、自らの胸に手をおいた。
「月が欠ければ、命は失われる。ベンバドル・ブラッドフォード、私とあなたは一心同体なのよ」
「てめえ……」
ベンバドルはミラを睨みつけた。ミラは笑おうとも、目をそらそうともしなかった。
「これはあなただけの問題でも、私だけの問題でもない。二人で解決しなければならない試練なのよ」
「これ以上付き合いきれん。帰らせてもらう」
「あなたはこの話を信じていない。けれどすぐ理解することになる。私達が、何に縛られているのかを」
「あばよ」とだけ言って、ベンバドルは銃器とコートを回収して外に出た。
ミラは見つめてくるばかりで、その場を動こうとしなかった。
家の外はやはり貧民窟のど真ん中だった。淀んだ空気、薄汚いバラック、道端で寝ている浮浪者、最悪の場所だ。もう二度と来ることはないだろう。
ミラの家から五十メートル弱ほど離れたところで、ふと思い出す。そういえば、なぜ助かったのかを聞いていなかった。あの悪夢はどうなったのだろうか。意識を取り戻したあいつが倒したのか? となるとやはり命の恩人ということになり、無論お互い様ではあるが、やはりそのことはハッキリさせるべきだったか。
足を止めていくらか考えを巡らせたが、戻るという選択肢には行き着かなかった。
再び歩き――激痛。胸元を抑える。「がっ……ぐぁ……こいつぁ……ああああ」息が出来ない、胸が締め付けられる、視界が真っ赤に染まる。
膝をついて、そのまま倒れる。地面についた手が、土をえぐり取る。逃れようとして這いずるが、苦痛はなくならない。
「ちくしょう……」
目を開けると、高いところにミラの顔があった。家の玄関にいるようだった。
肩で息をしている。らしくない。なにがあった、ああ、そうか、また、助けられちまったか。
「よぉ……今度こそ死んだ……わけじゃねえか……」
ミラは言葉を絞り出すように、途切れ途切れに言った。
「私達は、繋がれている、こういう、ことよ。呪いは、太陽と月とを縛り付ける。あなたみたいな人間には、言って聞かせるよりも、こっちのほうが効果が、あったでしょうね」
「繋がれ……もしかして……お前も……世話かけたみたいだな……」
「必要だからそうしたまでよ。さっさと起きなさい。これからはあなたにも協力してもらうわ」
同じ痛みを味わったのか、ミラの顔は真っ青だった。
部屋に戻るとミラは言った。
「呪いはあの悪夢に由来している。以上よ」
「……以上よ、って他になんかねえのかよ。ていうかなんでお前はそんなことがわかるんだ」
ミラは目を細めた。おまけに、舌打ちのような音が聞こえた。
「あなたはこちらの指示に従えばいいわ。余計な詮索は死期を早めると思いなさい」
「ああそうかい、じゃあ俺はさっきのベッドを借りて昼寝でもしてるよ……ってんなわけにはいかねえだろうが。知ってることは話してもらおう、全部な」
鋭いミラの視線を、ベンバドルは真っ向から受け止めた。腰のホルスターに手をかけてみると、向こうも左腕を僅かに上げるような仕草を見せた。
「言いたくねえってんなら銃口に聞いてみるか」
「あなたがよほどの恩知らずなら、試してみるといいわ。命の保証はしないけれど」
「へっ、どうせ死ぬって話だろうが」




