↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水銀の錬金術師と、姉を殺しにきた妹  作者: 光
第一章 月なき夜に煌々と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/53

第5話 地獄の朝食にようこそ

「ミラお姉さま! お客人が目を覚ましましたわ!」


 子どもの金切り声が寝起きの頭に響く。


 木目の天井。粗末なベッド。薄汚れた窓硝子。金髪の巻き髪が、顔を覗き込んでいる。なんだこいつは、なぜ騒いでやがる。頭が痛い。それとここはどこだ。差し込む日が眩しい。子供たちの……子供?


「ロリーナ、そんなに騒がないで」


 男だ。大人びたガキ。


「はわわわ……ほんとに起きちゃった……どうしようアラン、ナタリー……」


 こっちも男。またガキ。混乱して頭を振っている。


「大丈夫よヤン! 悪さをしたらミラが懲らしめてくれるわ! ね、ヘレン!」


 今度は女。当然ガキ。なぜか胸を張っている。


「ママの……お客さん……お前と一緒?」


 その隣も女。一番小さいガキ、胸に抱いた白毛の子猫を見て、首をひねっている。


 子供が五人。うるさいガキが五人。解剖でもするみたいに、ベンバドルを取り囲んでいる。この状況はなんだ。ロリーナ、アラン、ナタリー、ヤン、ヘレン、それとママ? 聞いたこともねえ名前ばかり。ママとは個人名か? 役職か? せめて大人であることを願う。


 足音が近づいてくる。軽快に、一定のリズムで、一糸乱れない。やがて止まって、ちょうど日差しを遮るようにベンバドルを見下ろした。唯一、その顔、その灰髪には覚えがあった。なんの冗談か、母親のように男児を抱きかかえている。


 ママか、こいつが。大人がいねえじゃねえか。


「よう……どうやらここは地獄みてえだな」


「ご機嫌なお目覚めね、安心したわ」


 ミラ! と子供の一人が叫んだ。


「自己紹介がまだだったな……ベンバドル・ブラッドフォードだ……もしよかったら状況を説明してくれ」


「起き抜けに自己紹介なんて、あなた変わってるわ」


「自分でも思うよ……ただ無性に名乗りたい気分だったんだ……」


 頭にぼんやりと名前が浮かぶ。この少女は、なんといったっけ。子供にはミラと呼ばれている、でも確か……。


「お前はミラ……ミラクリス――」


 ベンバドルの言葉は遮られる。


「私はミラ。それだけ。余計な修飾なんて必要ないわ」


「そうか、ミラか……綺麗な名前だ、気に入ったぜ」


 ミラはなにも言わずに明後日の方向を向いた。


 近くにいたロリーナが、ミラの袖を引っ張った。瞳を小刻みに揺らして、顔を真っ赤にしていた。


「お、おふたりは、どこまで進展していらっしゃいますですの」


 ミラは強張っていた表情を緩めた。


「猫と一緒よ。死にかけていたから拾ってきた、ただそれだけ。特別なことなんてないのよ」


 そういえば俺は死んだはずだ、とベンバドルは思った。胸を触ってみたが、穴は空いていなかった。


「なあ、俺はどうしてここにいるんだ。あそこで、なにがあった」


 一同の視線が、一斉にベンバドルを向いた。


 ミラは言った。


「その話は、後にしましょう。こんな素敵な朝に、仕事の話なんて面白くないでしょう?」


 ミラはまるで即興で作ったような堅苦しい笑顔を見せた。笑顔なのだけれど、目が笑っていない、というやつだ。


「別に、俺はいつでもどこでも構わねえ」


「さあみんな、行きましょう。ネアが待ってるわ」


 ミラは子供たちをまとめて、そそくさとその場を後にしようとした。


「おい、ちょっと待て」


 ベンバドルは身を乗り出し、シーツを除け床に降りようとした。ミラは顔だけで振り向いた。


「朝食の用意があるわ。あなたも来なさい。詳しい話はそれからよ」


 わかったか、とミラは睨むようにベンバドルを見た。


 いったいなんだって……そうか、子供がいるとなると、いろいろと配慮が必要なんだな。化物とのことを聞かれたくないらしい。


「仕方ねえなあ、ま、ちょうど腹も減ってたし、いいぜ、言いくるめられてやるさ」


 主導権を握られるのは好きではないが、腹の虫が訴えかけてくるのも、嘘ではなかった。


 寝かされていたのは二階の部屋だった。木造のあちこちががたついている家だ。部屋の数は多いが、とても住まいとして上等とはいえない。窓から外を見れば、同じようなあばら家がいくつも立ち並んでいて、裏手の丘には古い教会が見えていた。


 ミラと子どもたちは貧民窟と呼ばれるスラムの住人のようだった。


 一階に降りると、子どもたちはダイニングテーブルに向かい、各々が、おそらくは指定席に着座した。ベンバドルはというと、どうしてか、お仕着せを着用した使用人のような女に威圧されていた。ちょうど同じくらいに位置する視線が重なる。笑顔だが、本当に笑っているのかは定かではない。


「ようこそいらっしゃいました。わたしはイグネア、こう見えてミラの友人です」


「あ、ああ、よろしくたのむ」


「ところでお客様、あなたはどちら様ですか? 我が家にどのようなご用向きでしょう」


「いや、俺はあいつの……」


 テーブル付近にいるミラに目を向ける。こちらの様子など一切気にすることなく、先程まで抱いていた子供を席につかせているところだった。


「あいつ、あいつとはどちらでしょう? 我が家には”あいつ”などという人間は在住しておりません。もし家族のうちの誰か一人を指し示している、いえ、言い間違えたのならば、早いうちに訂正していただいたほうが、身のためですよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。