第49話 贋作には贋作の意地がある
紛い物なら、紛い物どうし、仲良くしてみない?
「そうやって抵抗していると、簡単には殺してあげないわよ? 手足をもいで、吊るして、内臓を一つ一つ潰してあげる。それが嫌だったら大人しく――」
「ミラのふりをするなら、ちょっとは似せる努力をしたほうがいいわ! そんな人殺しの顔はしないもの!」
悪夢は初めて忌々しそうに顔を歪めた。
「……せめて苦しませないつもりだったのだけれど、これもまた『私』の罪かしらね」
理解していた。今、どうするべきなのか。今、どうしたらいいのか。
足りていないのは想いだ。卑屈になっていたから、ううん、そうじゃない、信じきれていないから、応えてくれなかった。
最初からこうするべきだった。「わたしに力を貸せ」
アランとヤンを除けて、立ち上がる。ナタリーの肩に手を置いて微笑んで、悪夢の正面に出る。
「その輝き……まだ抗うつもりなの、贋作の分際で!」
「贋作には贋作の意地がある。偽物だって、本物に触れられる。ここには本物がある、わたしの中には!」
願う、違う、ぶつける。この想いを、白い石に叩き込む。
悪夢が銀色の刃で攻撃してくるが、右腕の一振りで薙ぎ払った。
「その目……あなた如きがなぜ……絶対に認めない」
「お前も紛い物なら、紛い物の想いに、わたしの想いに応えてみせろおおおお!!」
白い石で地面を抉る。ここで生み出す、ここで錬成する。勝つための力を。たったひとつのオリジナル、自分だけのアルケミアで暗闇を払う。
白い閃光の中から、一体のゴーレムが生まれる。
銀の輝きを放つ甲冑、
研ぎ澄まされた細身の大剣。
白銀の騎士。
聖なる鎧と剣は、あらゆる悪を打ち払う。
「あなたも人ならざるもの、資格は……、だけどぉ、所詮出来損ない! こんなものにぃ!」
悪夢は全身を融解させて、水銀そのものとなりゴーレムに迫った。だが、そんな反撃など意にも介さず、大上段に大剣が構えられる。
「役立たずは、そっちだったね」
振り下ろす。燐光のような瞬きが軌跡を描いた。
闇を裂く白銀の一閃。悪夢の分身は消滅し、足元に真っ白な塩だけが残った。
天井が突き破られ、白みを帯びた月が見える。石粒が、パラパラと降り注ぐ。イグネアが身体をもそっと動かして、イーディスに微笑んだ。
力が抜けて背中から倒れると、ナタリーが受け止めてくれた。
「あれ、イーディスの目、ミラみたい……わたしはどっちも好きよ!」
そんなことを言われたが、よくわからなかった。目がどうしたのだろう?
瞬きをすると、ナタリーは「あっ」と驚いたように声を上げた。
それから「やっぱりなんでもないわ!」となぜか誇らしげだった。
まぁ、いいか。ナタリーは気分で物を言うから。
遠い夜空を見つめて、つぶやいた。
「イーディスは……みんなの力で敵をやっつけたよ。あとはミラ姉さまも」
それから白い石に目配せして、「ありがとう」と礼を言った。




