↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水銀の錬金術師と、姉を殺しにきた妹  作者: 光
第三章 姉と妹と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/53

第46話 あと一歩で届く

 残っていた全ての黒い石を投げつける。激しい閃光を背に、イグネアを背負ってイーディスは地下を目指した。


 まもなく地上部分は完全に崩落した。階段を駆け下り、廊下を走る。一人ではないために、とても早いとは言えないペースで。こんなことなら身体も鍛えておけば……大丈夫、いくら怪物でも、あれほどの大質量を受け止めて無傷ではいられないはず、時間は稼げている。慌てちゃダメ、落ち着いて、冷静に、いまやるべきをやる。それだけを意識しよう。


 大丈夫だ、大丈夫だ、と何度も自分に言い聞かせて、それでも思ってしまう。


「この石が……イーディスにも扱えたら……」


 重たい。こんな石投げ捨ててしまおうかと思う。


 こんなケチくさい石なんて。困っている人を助けてくれない秘宝なんて。なにがアルケミストだ。なにが我々だ。余計なことばかりして、人を困らせることばかりして、あんな怪物まで生み出して、操ろうとして、操れなくて、なんて滑稽だ。白い石だかなんだか知らないが、誰か一人くらい幸せにしてみせろ。


 ……いや、あったかもしれない。そんなふうに使われたことが。誰かを喜ばせるためだけに、白い石が応えたことが。


 髪飾りのことを想う。


「……プレゼント嬉しかったな」


 なにが違うんだろう。あの人と、イーディスは。


 イーディスは首を振って、子供たちの待つ部屋を目指した。



 土にまみれ仰向けに倒れるミラを、悪夢は目が潰れるほどの笑顔で見下ろしていた。


「やっほーまだ生きてる? あ、生きてる生きてる、そうだよね、うんうん。私がここにいるってことはそういうことだもの。気分はどう? 大切なもの、また、失くしちゃったわね」


「そういうあなたは……ずいぶんと気分よさそうじゃない……ぐっ……」


 悪夢はミラの頭を踏みにじる。途端に笑顔が反転する。


「その態度、つまらない。もっと嬉しそうにしなさいよ、ようやく願いが叶うんだから!」


 叫びながら、今度は腹を蹴飛ばす。


「がはっ……悪いけど……その願いはもう捨てたの……」


「あんなのに影響されちゃって情けないったらありゃしない。アイシアに申し訳ないと思わないの?」


 ミラは首だけを動かし、自らの左腕を見つめる。色白の肌には傷一つ付いていなかった。まるでそこだけが彼女の身体ではないようで、傷だらけの全身とは対照的だった。


「私は……ずっと間違えていた……本当に伝えるべきだったのは……ただ生きていてほしいってそれだけで……謝罪なんて……贖罪なんて……求めてはいなかった……」


 ミラは続ける。


「みんな……それをわかっている……だから……与えてあげられるものは……私が欲しいものは……死なんかじゃない……あっ……あぁぁぁ!」


 銀色に輝く鋭利な指先がミラの右肩、開いた傷口を抉る。執拗に責め立て、叫び声が聞こえるたびに、醜悪に頬を吊り上げる。


「痛いでしょう? でもね、あなたが殺した人達はもっと痛かったのよ? ベンバドルなんて死体すらも残らないで、どこで肉塊になっていることやら、かわいそうにねえ。助けられたはずなのに、みんな生きていられたはずなのに。開き直っちゃダメよ、しっかり償わないと、そのために、」


「あぁぁああああ……!!」


「私は頑張っているのだから!」


 一気に指が引き抜かれる。肩は血の銀に染まり、骨までもが顕になっている。それでもなお、痛みに喘ぎながらも、苦痛を与えられながらも、ミラは悪夢をまっすぐに見つめていた。


「がっかりだわ。『私』がここまで狂っていたなんて……約束通り四肢をもいで宙吊りにしてあげる。『私』ならきっとしばらくは生きられる。その間に存分に反省することね。それが終わったら、一緒に消えましょう」


 悪夢はしゃがみ込み、ミラの背中を支えた。それから、力を入れずに抱きしめた。


 身体を離すと、左腕を鉈のように変形させた。


「はぁ……はぁ……最後にひとつだけ……いいかしら……」


「もちろん、『私』の最後は私の最後でもあるもの。言いたいこと言って、気持ちよく終わりましょう」


 ミラは力なく微笑む。そして、吠えた。


「お前は……私などではない……!」


 それが合図だった。


「あぁん? 今更なにを――まさかっ!」


 空が落ちたあの瞬間、ミラは、咄嗟にベンバドルを守った。自らを気にする余力は残っていなかったのだろう。頭上に出現した銀色の盾はベンバドルのみを防御、敵の攻撃によって作られた土砂の中へと彼を投げ入れた。このタイミングを待っていた。


「うおおおおおおおおおおおお!!!」


 土砂を跳ね除け、飛び起きる。一気に迫る、敵は近い、手を伸ばせば、


「なんて往生際の悪い……は、か、あ、からだ、が……く……そっ……」


 敵の身体にミラの銀糸がまとわり付く。逃すまいと拘束している。ガクガクと糸はほどかれそうになっている。長くはもたないかもしれない。だが、十分だ。


「くらいやがれ!」


 届く、あと一歩で、届く、これで決着が、全てが終わる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。