↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水銀の錬金術師と、姉を殺しにきた妹  作者: 光
第二章 水銀の悪意

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/53

第21話 家族ですもの

 巨人が拳を振り上げる。咄嗟に駆け出そうとしたベンバドルに、ミラは叫んだ。


「来ないで、約束を違えること許さないわ!」


「あいつには手を出さねえ!」


 ライフルを抜き、巨人の拳を狙う。あれも泥人形だというのなら、打ち砕けるはずだ。


 瞬時に照準を合わせる。コッキング。トリガーに指をかけ、


「なにっ」


 突然、足元から例の銀色が出現、射線に重なる。身を捩り巨人を狙うが、銀色の身体がするりと伸び、ベンバドルを吹き飛ばした。崩れた長椅子の上で身を起こすと、目の前に鋭利な切っ先があった。


「お兄さんは大人しくしてて。用があるのは、姉さまだけなんだからっ」


 巨人の拳が振り下ろされる。ミラは回避しようともせず、その一撃を上半身で受けた。


 肩を抑え、苦痛を顔に浮かべながらも立ち上がる。ミラはなにも言わずにイーディスを見つめていた。


「てめえっ、こいつは交渉じゃなかったのか!」


「先に手を出したのはそっちだよ。暴力が嫌いなら、黙って見てて」


 ミラは言った。


「私のことは好きにしていい。一切の抵抗はしないと誓う。白い石も差し出す。だから、二人を解放してあげて」


「この状況でそんなの取引になるのかな。でもいいや、姉さまの博愛精神がどこまでご立派なのか試してあげる」


 巨人が動き出し、ミラの両腕を持ち上げた。磔にされた罪人のように、ミラの腕が、脚が、地面から離れていく。


「てめえ――ちぃ……」


 ベンバドルに突きつけられた切っ先は、微動だにしない。隙を探すが一瞬でさえも見当たらない。こめかみ辺りから汗が滴り落ちていった。ほんの少しでも動けば串刺しにされる。黙って見てるしかねえのかよ、ちくしょう。


 イーディスは壇上から降りてきて、ミラへと近づいた。


「かわいそうな姉さま。イーディスどんなことだってできちゃうよ。その身体じゃあ簡単には死ねないから、痛いのは終わらない。いつまで他人を想っていられるかな」


「私は……罪を抱えている……あなたに断罪されるというのなら……満足よ」


 骨がきしむような音がした。


「あぁっ……」


 イーディスはミラの胸ぐらを掴んだ。暗い眼を向けて、吐き捨てた。


「苦しい、苦しいんだね、なら、無理なんてしなくていいのにっ」


 その華奢な細腕で、ミラの腹部を思いっきり殴りつける。それを受けたミラは、巨人に吊るされたまま、薄く笑みを浮かべていた。


「なにがおかしいの、なんで笑っていられるの!」


 消え入りそうな声で、ミラは言った。


「おかしくなんてない……ただ……嬉しくて」


「嬉しい? 現実逃避のつもり。それとも、本格的に頭がおかしくなっちゃったの? かしこいだけが取り柄だったのに!」


 イーディスはさらに続けてミラを殴りつけた。


 嗚咽。苦しそうな吐息を漏らすが、それでもミラは笑っている。


 どれだけ暴行を加えられようとも、どこか満足げな表情でイーディスを見つめている。


「このっ――」


 イーディスは顔面を狙うように拳を振り上げた。


 ミラは言った。


「もう一度触れ合えるなんて……思わなかったから……」


 ぴた、と拳が止まる。


「なにを」


 イーディスの顔に困惑が浮かぶ。口元も目元も歪ませて、苦しんでいるようにも見える。


「イーディス」


 ミラは笑っていた。敵意のない、あの子供たちへ向けるのと同じ、微笑み。


「生きていてくれて、本当によかった」


 イーディスの表情がさらに歪んだ。口元を固く結んで、かろうじて威厳を保とうとしているように見える。今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔だ。


「私にはそれだけでいいの。それだけで十分。他にはなにもいらない。もしあなたが望むのなら、ここで死んだって構わない。それほどのことをしてしまったのだから」


 ミラは続けた。


「満足したらみんなのところに行ってあげて。ネアには伝えてあるから、なにも心配しなくていいのよ。もちろんナタリーも一緒に。呪縛や束縛から逃れて、あなたは、あなたらしく生きればいい」


 イーディスはうつむき加減で肩を震わせていた。時折小さな声が漏れるが、言葉にはならない。ミラはその姿を、ただただ見つめていた。


 やがて、顔を上げずにイーディスは言った。


「この期に及んで、なんでそんな事言うの。違うよ、そんなんじゃないよ……命乞いしてよ……!! 死にたくないって、言ってよ……!」


「私には自分の気持ちなんてわからない。本当は死にたくないのかもしれない、でも、そんなことはどうでもいい、あなたの気が晴れるのなら、それを優先するべきだと思うから」


「そんなの間違ってる! 姉さまだけじゃない、ナタリーや、ネア姉さま、他の子供達、それに無関係のお兄さんまで巻き込んで、そんな、そんな悪いやつなんだよ、イーディスを許せるわけないんだよ!」


 巨人の手から力が抜ける。するりと身体が落ちていき、ミラは地面に降り立った。そのままゆっくりと歩を進め、イーディスの元へと歩み寄った。


 ミラは腕を広げ、その目線にまでしゃがんで、黙ってイーディスを抱き寄せた。両腕で包みこんで、落ち着いた手つきで背中を撫でた。


「この……この……」とかすれ声が聞こえるが、それだけだ。その腕から抜け出そうとはしない。抱き寄せ、耳に口元を寄せて、ミラは言った。


「私は、あなたの罪を許しましょう」


「なんで、そんなこと……」


「家族ですもの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。