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水銀の錬金術師と、姉を殺しにきた妹  作者: 光
第二章 水銀の悪意

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第17話 イーディスは、イーディス

 一本の蝋燭が、窓のない、独房のような部屋を照らしている。イーディスは銀色に指示を出し、ナタリーをシーツの破けたベッドに寝かせた。


 ふとナタリーが目を開けた。イーディスが軽く手をあげると、銀色は土の壁と同化して姿を消した。


「もう起きたんだ。できれば、眠っていてほしかったんだけど」


「あなた悪い子ね! いいわ、拷問でもなんでもしなさい! 痛いのはやめてね!」


 ナタリーに見つめられて、イーディスは顔を逸らした。


「拷問なんて、しない。ええと……ナタリー、悪いけど、しばらく、ここにいてもらうから」


「なぜかしら?」


 ナタリーは大きく首をかしげた。


「姉さま……ミラへの――」


「ミラを知っているのね!」


「……知ってるよ、とってもよく知ってる。ナタリーの知らないことも、知ってる」


「だったら話は早いわ! 謝りにいきましょう! しょうがないから、わたしも付き添ってあげるわ! 大丈夫よ! ミラは優しいからきっと許してくれるわ! たまに怖いけどね!」


「そうかもしれない。軟弱な姉さまは、誰も責めないんだろうね。むしろ……」


 イーディスは押し黙った。ナタリーはつぶらな瞳をまんまると広げて、ジロジロと観察するようにイーディスを見ていた。


 蝋燭のおぼろげな光が、二人の横顔を照らした。


「ねえ、聞いても、いい?」


 イーディスが言うと、ナタリーは腰に手を当てて、胸を張った。


「なにかしら! なんでも聞いてちょうだい!」


「……姉さまは、ミラは、ナタリーを助けに来てくれると思う?」


 ナタリーは笑った。


「言うまでもないわ!」


「やっぱり、そう思うんだ。なら、歓迎の準備をしないと」


 イーディスは、部屋の鍵を握りしめた。


 部屋から出ようとするイーディスを、ナタリーが呼び止めた。


「待ちなさい! まだ名前を聞いていないわ!」


 足を止めて、振り向いた。


「イーディスは、イーディス。他の誰でもないよ」


「イーディスね! イーディス、イーディス、イディー……イーディス! ばっちり覚えたわ!」


 ナタリーはにこにこ笑顔で胸を張っている。こんな状況でも、楽しそうだ。


 今度こそ去ろうとすると、こんなことを聞いてくる。


「イーディスは、ミラが嫌いなの?」


「……たぶんね」


 外に出た。イーディスは部屋を施錠しようとして、しばらく手元を見つめて、回さずに鍵を引き抜いた。


 扉に背をあてて、つぶやいた。


「言うまでもない、か。そんなふうに思ってたよ、イーディスも。ナタリーのところには、本当に来てくれるんだろうけど」


 羨ましいな、という声が胸の中から聞こえてきて、無理やり耳を閉ざした。


「ねえさま、そこにいるよね? よかった。うん、そう、手はず通りにおねがい。夜が明ける前に、あのお手紙を届けて」


 暗闇に声がささやく。


「うん、あなたはサポートに。わかってる。やりようはあるよ、けど、あれは使わない。だって、もし触れたら……それに、姉さまなんかに、黄金は役不足だよ」


 イーディスは背中を浮かせて、虚空を見つめた。


「そんなことよりね、面白い仕掛けを考えたの。指輪を回収するように仕向けて……最後はねえさまに辿り着く。絶対に取り戻せないってわかったとき、どんな顔するのか、楽しみだなあ」


 イーディスは扉から離れて、石畳の廊下を歩いていった。


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