第17話 イーディスは、イーディス
一本の蝋燭が、窓のない、独房のような部屋を照らしている。イーディスは銀色に指示を出し、ナタリーをシーツの破けたベッドに寝かせた。
ふとナタリーが目を開けた。イーディスが軽く手をあげると、銀色は土の壁と同化して姿を消した。
「もう起きたんだ。できれば、眠っていてほしかったんだけど」
「あなた悪い子ね! いいわ、拷問でもなんでもしなさい! 痛いのはやめてね!」
ナタリーに見つめられて、イーディスは顔を逸らした。
「拷問なんて、しない。ええと……ナタリー、悪いけど、しばらく、ここにいてもらうから」
「なぜかしら?」
ナタリーは大きく首をかしげた。
「姉さま……ミラへの――」
「ミラを知っているのね!」
「……知ってるよ、とってもよく知ってる。ナタリーの知らないことも、知ってる」
「だったら話は早いわ! 謝りにいきましょう! しょうがないから、わたしも付き添ってあげるわ! 大丈夫よ! ミラは優しいからきっと許してくれるわ! たまに怖いけどね!」
「そうかもしれない。軟弱な姉さまは、誰も責めないんだろうね。むしろ……」
イーディスは押し黙った。ナタリーはつぶらな瞳をまんまると広げて、ジロジロと観察するようにイーディスを見ていた。
蝋燭のおぼろげな光が、二人の横顔を照らした。
「ねえ、聞いても、いい?」
イーディスが言うと、ナタリーは腰に手を当てて、胸を張った。
「なにかしら! なんでも聞いてちょうだい!」
「……姉さまは、ミラは、ナタリーを助けに来てくれると思う?」
ナタリーは笑った。
「言うまでもないわ!」
「やっぱり、そう思うんだ。なら、歓迎の準備をしないと」
イーディスは、部屋の鍵を握りしめた。
部屋から出ようとするイーディスを、ナタリーが呼び止めた。
「待ちなさい! まだ名前を聞いていないわ!」
足を止めて、振り向いた。
「イーディスは、イーディス。他の誰でもないよ」
「イーディスね! イーディス、イーディス、イディー……イーディス! ばっちり覚えたわ!」
ナタリーはにこにこ笑顔で胸を張っている。こんな状況でも、楽しそうだ。
今度こそ去ろうとすると、こんなことを聞いてくる。
「イーディスは、ミラが嫌いなの?」
「……たぶんね」
外に出た。イーディスは部屋を施錠しようとして、しばらく手元を見つめて、回さずに鍵を引き抜いた。
扉に背をあてて、つぶやいた。
「言うまでもない、か。そんなふうに思ってたよ、イーディスも。ナタリーのところには、本当に来てくれるんだろうけど」
羨ましいな、という声が胸の中から聞こえてきて、無理やり耳を閉ざした。
「ねえさま、そこにいるよね? よかった。うん、そう、手はず通りにおねがい。夜が明ける前に、あのお手紙を届けて」
暗闇に声がささやく。
「うん、あなたはサポートに。わかってる。やりようはあるよ、けど、あれは使わない。だって、もし触れたら……それに、姉さまなんかに、黄金は役不足だよ」
イーディスは背中を浮かせて、虚空を見つめた。
「そんなことよりね、面白い仕掛けを考えたの。指輪を回収するように仕向けて……最後はねえさまに辿り着く。絶対に取り戻せないってわかったとき、どんな顔するのか、楽しみだなあ」
イーディスは扉から離れて、石畳の廊下を歩いていった。




