↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この体、男子ですけど何か?  作者: 蒼狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/50

第42章 平日の温度

月曜日の朝は、いつもより少し軽い気持ちで始まった。


目覚ましの音で目を覚まし、カーテンを開ける。

薄い雲がかかった空の下、街がゆっくりと動き始めている。

昨日の美咲との時間が、まだ体のどこかに残っていた。

手をつないだ感触。

彼女が「手、つなでもいいですか?」と聞いてきたときの小さな声。

改札の前で何度も振り返っていた後ろ姿。


キッチンでコーヒーを淹れながら、自然と口元が緩む。

スマホを確認すると、すでに美咲からメッセージが届いていた。


【美咲】

おはようございます。

昨日はありがとうございました。

今日も一日、頑張りましょう。


簡潔な文章なのに、なぜか胸が温かい。

私は「ああ、おはよう。こちらこそ」と返信してから、身支度を整えた。


---


会社に着くと、いつもの朝の喧騒が迎えてくれた。


「おはようございます、山田さん」


美咲の声が聞こえる。

いつもの丁寧な挨拶。

でも、目が合った瞬間、彼女の頰がほんのり赤くなったのがわかった。


「おはよう、美咲」


名前を呼び捨てにしたのは、もう自然なことになりつつある。

彼女は小さく頷いて、席に着いた。


午前中は会議が続いた。

新プロジェクトの進捗確認と、次の案件の方向性についての話し合い。

集中しているつもりでも、時々美咲の方に視線が向いてしまう。

彼女も同じように、資料をまとめながらちらちらとこちらを見ているのがわかった。


昼休み、彼女がデスクに近づいてきた。


「山田さん……お昼、一緒にどうですか?」


「ああ、行こう」


社食で向かい合って座る。

以前より会話が自然で、沈黙も苦しくない。

仕事の話を少ししたあと、週末の話になった。


「昨日の美術館、よかったですね」


「ああ。美咲が選んでくれたおかげだ」


彼女は俯きながら、小さく笑った。


「私……また誘ってもいいですか?」


「もちろん。むしろ、次は俺から誘うよ」


その言葉に、美咲の目が少し輝いた。


午後も仕事は続いた。

終業時間近くになると、彼女が再び近づいてきた。


「今日も……駅まで一緒に帰りますか?」


「ああ」


夜のオフィス街を並んで歩く。

前回より、さらに距離が近い。

肩が触れそうになるほど近くて、でも触れない絶妙な間隔。


「山田さん」


「ん?」


「私、最近すごく幸せです。

山田さんと話してるだけで、なんだか安心するんです」


その言葉が、胸の奥に温かく沈んだ。


「俺もだ。美咲がいてくれると、変に気負わなくていい」


駅の改札前で、彼女は小さく頭を下げた。


「それでは……お疲れ様でした」


「ああ。気をつけて帰れよ」


美咲は何度も振り返りながら、改札を通っていった。


---


マンションに帰ると、いつもの静かな部屋が待っていた。


コートを脱ぎ、ソファに座り、ビールを一本開ける。

テレビをつけたが、画面はあまり見ていなかった。


頭の中では、美咲との時間がゆっくりと再生されている。

平日のこの距離感が、少しずつ「日常」になり始めている。


ふと、遥香のことが頭をよぎった。


彼女からは、その後も連絡は来ていない。

それがかえって、彼女の潔さを感じさせた。


テーブルの上のノートを開き、今日の日付を書いてから、短く記した。


『美咲との関係が、平日の中にも浸透してきている。

嬉しい。

でも、遥香のことはまだ完全に消えていない。

それでも、このまま前に進む。』


ペンを置き、天井を見上げる。


「この体、男子ですけど何か?

今日は、美咲との距離が、少しだけ日常になってきました……」


私は深く息を吐き、静かに目を閉じた。


この新しい温度を、大切に感じていこう。


そう思えた、穏やかな夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。