第41章 二度目の休日
土曜日の朝は、前回よりも少しだけ落ち着いて目が覚めた。
カーテンを開けると、薄い雲がかかった空が広がっている。
今日は美咲と約束した、二度目の休日だ。
前回の公園での時間が、まだ体のどこかに残っている。
手の温もり。
ジャケットをかけてあげたときの距離感。
ベンチで並んで座っていた沈黙。
鏡の前で身支度を整える。
今回はダークグレーのシャツに黒のパンツ、薄いコート。
前回より少し大人っぽい印象になるように選んだ。
腕時計をはめ、深呼吸をしてから家を出た。
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待ち合わせ場所は、美咲が選んだ小さな美術館の前だった。
彼女はすでに立って待っていた。
クリーム色のニットに、ブラウンのスカート。
髪をゆるくまとめていて、会社で見る姿とはまた違う柔らかさがある。
「山田さん……おはようございます」
「おはよう。待たせたか?」
「いえ、ちょうどいい時間です」
美術館の中は静かで、人の気配が少ない。
絵画を眺めながら、自然と肩が並ぶ距離で歩く。
説明文を一緒に読んだり、気になった作品の前で足を止めたり。
「この絵、なんだか落ち着きますね」
美咲が小さな声で言った。
「ああ。色が柔らかい」
会話は以前より自然だった。
無理に話題を探す必要がなく、沈黙も苦しくない。
美術館を出た後、近くのレストランで早めの昼食を取ることにした。
窓際の席に座り、メニューを開く。
「美咲は何にする?」
「私は……白身魚のムニエルにします。山田さんは?」
「じゃあ、俺はハッシュドビーフで」
食事が運ばれてくるまでの間、彼女は少し照れくさそうに微笑んだ。
「前回より、少しだけ緊張が少ないです」
「俺もだ。美咲といると、変に気負わなくていい」
その言葉に、彼女の頰がほんのり赤くなった。
食事中も、仕事の話はほとんどしなかった。
最近読んだ本のこと、子どもの頃の話、休日の過ごし方。
美咲は意外と昔話を聞くのが好きらしく、こちらの話に真剣に耳を傾けてくれる。
食後、店を出て並んで歩き始めたとき、彼女が小さく言った。
「あの……手、つなでもいいですか?」
一瞬、足が止まった。
「……ああ」
私は自分から手を差し出した。
美咲の小さな手が、私の大きな手に重なる。
指が絡まる感触が、前回よりも自然だった。
秋の風が少し冷たい。
でも、掌から伝わる温度が、それを上回っている。
駅まで歩く間、ほとんど会話はなかった。
それでも、沈黙が心地よかった。
改札の前で、美咲は私の手を少しだけ強く握った。
「今日は……本当にありがとうございました」
「こちらこそ。また誘ってくれ」
彼女は嬉しそうに何度も頷いてから、改札を通っていった。
振り返るたびに小さく手を振る姿が、いつまでも目に残った。
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マンションに帰ったのは、夕方近くだった。
部屋に入ると、いつもの静寂が迎えてくれる。
コートを脱ぎ、ソファに深く沈み込む。
今日の美咲の笑顔が、鮮明に残っている。
手の温もりも、まだ掌に残っている気がした。
テーブルの上のノートを開き、今日の日付を書いてから、ゆっくりと記した。
『美咲と、二度目の休日を過ごした。
手をつないだ。
前より自然で、前よりあたたかかった。
これでいいんだと思う。』
ペンを置き、天井を見上げる。
遥香のことは、まだ完全に消えていない。
でも、今日の時間は、確かに「前に進んでいる」感覚があった。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、美咲と少しだけ恋人らしい距離を感じました……」
私は深く息を吐き、静かに目を閉じた。
この新しい関係を、大切に育てていこう。
そう思えた、穏やかな夜だった。




