↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この体、男子ですけど何か?  作者: 蒼狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/50

第40章 日常の温度

日曜日の朝は、ゆっくりと過ぎていった。


目覚ましをかけていなかった私は、自然と目が覚めた。

カーテンの隙間から差し込む光が、部屋を柔らかく照らしている。

昨日の美咲との時間が、まだ体のどこかに残っている気がした。

手の温もり。

ジャケットをかけてあげたときの距離。

ベンチで並んで座っていた沈黙。


キッチンでコーヒーを淹れ、窓辺に立つ。

湯気を眺めながら、ふとスマホを確認した。


美咲から、朝のメッセージが届いていた。


【美咲】

おはようございます。

昨日はありがとうございました。

とても楽しかったです。

山田さんも、ゆっくり休んでくださいね。


文章は丁寧で、少し照れくさそうな気配がする。

私は「こちらこそ。また今度ゆっくり話そう」と返信した。


午前中は、部屋の掃除と洗濯をした。

男の体で家事をするのも、もうかなり慣れてきた。

掃除機をかけながら、自然と口笛のようなものが漏れそうになる。

以前の愛子の頃にはなかった、穏やかな感覚だった。


午後になり、スーパーに食材を買いに出た。

カゴを持つ腕の力強さに、改めてこの体を意識する。

レジで店員に「ポイントカードはお持ちですか?」と聞かれ、自然に「いいえ」と低い声で答える。

以前なら少し恥ずかしかったこの声も、今では自分のものに感じられるようになってきた。


帰宅後、簡単な夕食を作った。

鶏肉を焼き、野菜を炒め、味噌汁を仕立てる。

悠真の記憶が教えてくれるレシピと、愛子の頃に母親が作っていた味の記憶が、不思議と混ざり合っている。


食後、ソファに座ってビールを開けた。

テレビをつけたが、画面はあまり見ていなかった。


頭の中では、美咲とのこれからがぼんやりと浮かんでいる。

次に会うときは、どこに行こうか。

どんな話をしようか。

どこまで距離を縮めていいのか。


ふと、遥香のことが頭をよぎった。


彼女からは、その後も連絡は来ていない。

SNSを覗いても、特に変わった様子はない。

それがかえって、彼女の強さを感じさせた。


「……ありがとう」


小さく呟くと、自分の低い声が部屋に響いた。


テーブルの上のノートを開き、今日の日付を書いてから、ゆっくりと書き始めた。


『美咲との関係が、少しずつ日常になり始めている。

嬉しい。

でも、遥香のことはまだ完全に消えていない。

それでも、このまま前に進む。

この体で、この人生で、ちゃんと生きる。』


書き終えたあと、ペンを置き、天井を見上げた。


窓の外では、秋の夜風が木々を揺らしている。

部屋の中は静かで、でも以前のような寂しさは薄れていた。


美咲の存在が、確かにそこにある。

遥香との別れも、痛みとして残っている。

その両方を抱えながら、私は少しずつ「山田悠真」として生きている。


「この体、男子ですけど何か?

今日は、穏やかな休日を過ごして、少しだけ日常の温度を感じました……」


私は深く息を吐き、静かに目を閉じた。


この新しい日常を、大切に育てていこう。


そう思えた、静かな夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。