第39章 初めての休日
土曜日の朝は、いつもより少し緊張して目が覚めた。
カーテンを開けると、秋晴れの空が広がっている。
今日は美咲と約束した日だ。
彼女が「少しだけ時間いただけませんか」と誘ってくれた、初めての休日の予定。
鏡の前に立ち、服を選ぶ。
普段のスーツではなく、白いシャツにベージュのチノパン、薄いジャケット。
男の体で私服を選ぶのも、まだ少し慣れていない。
髪型を整え、腕時計をはめ、深呼吸をした。
「……大丈夫か」
自分に言い聞かせるように呟いてから、家を出た。
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待ち合わせ場所は、駅前の小さなカフェだった。
美咲はすでに席に座って待っていた。
淡いピンクのブラウスに、ベージュのロングスカート。
髪を軽く巻いていて、会社で見る姿とはまた違う柔らかさがある。
「山田さん……おはようございます」
「おはよう。待たせたか?」
「いえ、ちょうどいい時間です」
席に着くと、彼女は少し緊張したように微笑んだ。
メニューを見ながら、お互いに「何にする?」と聞き合う。
会話はまだ少しぎこちないけれど、嫌な感じはしない。
ホットコーヒーとサンドイッチを注文し、窓際の席で向かい合った。
「休日の美咲さん、新鮮だな」
思わずそう言うと、彼女の頰が赤くなった。
「山田さんこそ……私服、似合ってます」
「ありがとう」
コーヒーを飲みながら、仕事以外の話をした。
最近観た映画、好きな音楽、休日の過ごし方。
美咲は意外と甘いものが好きで、カフェ巡りが趣味だという。
私は悠真の記憶を頼りに答えつつ、愛子としての感覚も少し混ぜながら話した。
「山田さんって、意外と物静かですね。
会社ではもっと凛としてるのに」
「家だと、こうなんだ」
「……好きです。その感じも」
彼女が小さくそう呟いた瞬間、胸がざわついた。
カフェを出た後、近くの公園を一緒に歩くことにした。
落ち葉が足元でサクサクと音を立てる。
風が少し冷たくて、美咲が肩をすくめた。
「寒い?」
「少しだけ……」
私は自分のジャケットを脱ぎ、彼女の肩にかけた。
男の体の大きさが、改めてわかる。
ジャケットが彼女の体をすっぽりと包み込む。
「ありがとう……ございます」
美咲は俯きながら、小さく礼を言った。
公園のベンチに座り、しばらく無言で景色を眺めた。
沈黙が苦しくない。
むしろ、穏やかだった。
「美咲」
「はい」
「俺、まだ不器用だと思う。
付き合うっていうのも、正直初めてに近い感覚で……」
彼女はゆっくりとこちらを見た。
「大丈夫です。
私も、山田さんとなら、ゆっくりでいいです」
その言葉が、胸の奥に温かく沈んだ。
午後の陽射しが、二人の影を長く伸ばしている。
私は自然と、彼女の手に自分の手を重ねた。
前回より、少しだけ自然に。
美咲は驚いたように目を見開いたあと、そっと握り返してきた。
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夕方、駅まで送ったあと、一人でマンションに戻った。
部屋に入ると、いつもの静寂が迎えてくれる。
コートを脱ぎ、ソファに座り、天井を見上げた。
今日の美咲の笑顔が、鮮明に残っている。
手の温もりも、まだ掌に残っている気がした。
テーブルの上のノートを開き、今日の日付を書いてから、短く記した。
『美咲と、初めての休日を過ごした。
ぎこちなくて、でも確かにあたたかかった。
これでいいんだと思う。』
ペンを置き、深く息を吐く。
遥香のことは、まだ完全に消えていない。
でも、今日の時間は、確かに「前に進んでいる」感覚があった。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、美咲と初めての休日を過ごして、少しだけ恋人らしい時間を感じました……」
私は静かに目を閉じた。
この新しい関係を、大切に育てていこう。
そう思えた、穏やかな夜だった。




