第4章 男の飲み会
「よし、今日は飲むぞー!」
同期の佐々木がビールジョッキを掲げて大声を出した。
会社から徒歩5分の居酒屋「やきとり宮」は、今日も賑わっていた。木曜の夜ということもあり、会社帰りのサラリーマンで席はほぼ埋まっている。
テーブルには佐々木の他に、営業部の同期が二人。合計4人の男の飲み会だ。
「山田、事故で死にかけたんだろ? 奇跡の生還祝いだ! 今日は飲んで飲んで飲みまくれ!」
「いや、控えめに……」
言葉とは裏腹に、ジョッキが次々と空になっていく。
男の飲み会は女子高生の頃に想像していたものと全然違った。もっと静かで大人しいイメージだったのに、実際は声が大きくて、話が飛躍しまくる。
話題は仕事、スポーツ、上司の愚痴、女の話へと移っていく。
「なぁ山田、お前最近彼女できた?」
佐々木がニヤニヤしながら聞いてきた。
「いないよ。仕事忙しくて」
「マジかよ。あの顔でモテないわけないだろ。社内の女子から『山田さんカッコいい』って話、めっちゃ聞くぞ」
(……やめてくれ)
愛子としては「え、モテるって本当!?」と少し嬉しくなる気持ちと、「男としてモテるってどういう感覚……?」という混乱が同時に襲ってくる。
ビールを飲みながら、男同士の会話に必死でついていく。
女子の話になると、みんな平気で下ネタを交える。愛子の頃なら顔を真っ赤にしていた話題にも、今は笑って相槌を打たなければならない。
「山田は昔から女に困らないタイプだったよな。大学時代もモテモテだったし」
悠真の記憶がフラッシュバックする。確かに女の子に人気はあった。でも真剣に付き合ったのは一人だけ——元カノの遥香だ。
「遥香とは……もう終わったよ」
ぼそっと呟くと、佐々木が目を丸くした。
「お前、事故の後で性格少し変わったよな。なんか……柔らかくなったっていうか」
「そうか?」
「うん。以前の山田はもっと完璧主義で、ちょっと近寄りがたい感じだったけど、今は話しやすい」
その言葉に、少し胸が温かくなった。
愛子の性格が、悠真の体に少しずつ影響を与えているのかもしれない。
飲み会が盛り上がる中、佐々木が突然真面目な顔になった。
「でもよ、山田。お前、本当に大丈夫か? 事故の後って、人生観変わるって言うじゃん。なんか悩んでることあったら言えよ」
一瞬、すべてを話したくなった。
——実は俺、17歳の女子高生なんだ。
このイケメンの体に魂が入ってるんだ。
もちろん言えるわけがない。
「……ありがとな。ちょっと考え事は多いけど、大丈夫だ」
「そうか。まあ、いつでも頼れよ」
男同士の「頼れよ」という言葉が、意外と重く響いた。
女子高生の頃は、友達に悩みを相談するときはもっと感情的だった。でも男の友情は、こういうシンプルでストレートなものらしい。
飲み会が終わったのは23時過ぎ。
駅まで歩きながら、酔った頭で夜空を見上げる。
(男って、意外と大変なんだな……)
体は大きいのに、精神はまだ女子高生。
ビールを飲みすぎて胃が重い。声もからからだ。明日も出社なのに。
マンションに帰宅し、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。
今日も一日、よく頑張った。
でも、ふと思った。
高橋美咲の顔と、飲み会で話した遥香の記憶が、交互に頭に浮かぶ。
「この体、男子ですけど何か?……
今日は男の友情と、男の恋愛事情を少しだけ味わいました」
まだまだ慣れないことだらけの夜だった。




