第30章 最終プレゼン
最終プレゼンの日がやってきた。
A社の大会議室は、中間報告のとき以上に緊張感に包まれていた。
新任役員をはじめ、関係者たちが静かに席に着いている。
私はスーツを整え、資料を手に壇上に立った。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
最終提案をさせていただきます」
声が少し震えた気がした。
でも、深呼吸をして、スライドを進める。
悠真の経験が導く論理的な構成。
そして、愛子の感性が生み出した「日常の中の小さな特別感」というコンセプト。
「私たちが目指すのは、ただの広告ではありません。
忙しい毎日を生きる人たちに、『これがあるだけで、今日も少し頑張れる』という感覚を届けることです」
会議室の空気が、少しずつ変わっていくのを感じた。
役員の表情が厳しかったのが、徐々に興味を示すようになる。
質問が飛んできても、意外と自然に答えられた。
プレゼンが終わった瞬間、会議室に拍手が起こった。
「……いい提案だった。採用の方向で進めよう」
役員のその言葉に、膝から力が抜けそうになった。
控室に戻ると、美咲が目を潤ませて駆け寄ってきた。
「山田さん……! 本当に、本当にすごいです……!」
佐々木も背中を強く叩いてくる。
「やったな、山田! お前、最近本当に変わったよ」
その夜、チームでささやかな祝杯を上げた。
家に帰った私は、ソファに深く沈み込み、天井を見上げた。
大きな山を一つ越えた達成感が、胸に広がっている。
でも、同時に別の感情も湧いてきた。
美咲の笑顔。
遥香の想い。
そして、まだ完全に整理しきれていない自分自身。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、大きな仕事を成功させて、初めて本気で『山田悠真』として生きている実感が湧きました……」
仕事では結果を出せた。
次は、心の問題に向き合わなければならない。
私は静かに目を閉じた。
この先、もっと難しい選択が待っている気がした。




