第29章 追い込みの夜
中間報告から数日が経ち、最終プレゼンに向けた追い込みが本格化していた。
オフィスの空気は張り詰めていて、誰もが残業を重ねている。
私は資料の最終調整に追われ、モニターに向かい続けていた。
「山田さん、これでどうでしょう?」
美咲が修正案を持って近づいてきた。
彼女の目には疲労の色が浮かんでいるのに、表情は真剣だった。
「いいね。このコピー、もっと短くして感情を前面に出そう」
二人で作業を続けるうちに、時計は午前0時を回っていた。
「山田さん……少し休みませんか?」
美咲が心配そうに声をかけてくる。
「もう少しで形になる。お前は先に帰りな」
「いえ、私も残ります」
その言葉に、胸が少し熱くなった。
静かなオフィスで、二人きりで資料を見つめ合う。
キーボードの音と、時計の秒針だけが響いている。
「山田さん」
美咲が突然、小さく呼びかけてきた。
「私……山田さんのこと、ずっと見てきました。
事故の後から、すごく頑張っている姿を。
だから、結果がどうであれ、私は山田さんを応援します」
その真っ直ぐな視線に、私は言葉を失った。
遥香の顔が一瞬よぎる。
過去を共有する彼女の深い想いと、今目の前で支えてくれる美咲の純粋さ。
「美咲……ありがとう。
お前がいてくれるから、ここまで来れた」
彼女は少し頰を赤らめて微笑んだ。
その夜、家に帰った私は、ベッドに倒れ込みながら天井を見つめた。
最終プレゼンまで、あとわずか。
仕事の山場と、二人の女性の想い。
全部が同時に押し寄せてきて、頭がくらくらする。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、追い込みの中で、美咲の支えに改めて気づかされました……」
それでも、私は前に進むしかない。
この体で、この人生で、結果を出すために。




