第27章 山場の手前
新プロジェクトの中間報告が近づいていた。
会議室では、資料の最終確認が続いていた。
新任役員からのフィードバックは厳しく、「もっと尖ったアイデアを」という要求が繰り返される。
「山田、このままでは足りない。
クライアントを驚かせる『何か』が必要だ」
部長の言葉が、重く響く。
私はモニターに向かって何度も資料を書き直し、頭を悩ませていた。
悠真の論理的な思考と、愛子の「普通の人の感覚」をどう混ぜるか。
それが、このプロジェクトの鍵だと感じていた。
夜9時を過ぎても、オフィスには数人残っていた。
美咲が私のデスクに温かいお茶を置いてくれた。
「山田さん、少し休憩してください。
無理しすぎです」
「……ありがとう」
彼女は隣に座り、資料を一緒に眺め始めた。
「この部分……ターゲットの『小さな幸せ』をもっと具体的にしたらどうでしょう?
例えば、忙しい日常の中で『これがあるだけでちょっと嬉しい』っていう感覚です」
美咲の提案は、私の中の愛子の部分と不思議と重なった。
「いいね。その方向で少し直してみよう」
二人で作業を続けるうちに、時計は11時を回っていた。
「山田さん」
美咲が突然、小さく呼びかけてきた。
「最近、遥香さんのこと……考えすぎてませんか?」
不意を突かれて、手が止まった。
美咲は少し寂しそうに、でも優しく微笑んだ。
「私、見てるんです。山田さんが時々遠い目をしてるのを。
無理に答えを出さなくていいです。
でも……一人で抱え込まないでください」
その言葉が、胸に染みた。
「美咲……ごめん。
俺はまだ、自分の気持ちを整理できてない」
「大丈夫です。
私はここにいますから」
その夜、家に帰った私は、ベッドに横になりながら天井を見つめた。
仕事の山場。
美咲の優しさ。
遥香の想い。
全部が同時に押し寄せてくる。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、仕事の山場を前にして、美咲の優しさに支えられました……」
まだ答えは出ていない。
でも、少しずつ、私はこの人生を自分のものにしていこうとしている。




