第25章 新しい波の中で
新プロジェクトのキックオフミーティングは、予想以上に厳しかった。
会議室に集まったメンバーの前で、新任役員の意向を踏まえた説明が続いた。
「今回は『革新』を最優先に。前回の延長線上では不十分だ。山田、君が中心になって新しい切り口を出せ」
プレッシャーが直接的にのしかかる。
私はノートにメモを取りながら、頭をフル回転させた。
悠真の経験と、愛子としての「普通の感覚」をどう融合させるか——それが鍵になりそうだった。
ミーティングが終わった後、美咲が資料を抱えて近づいてきた。
「山田さん、大丈夫ですか? 今日の空気、かなり重かったですね……」
「ああ。でも、やるしかない」
彼女は少し迷ったあと、静かに言った。
「もしよかったら……今夜、少しだけ一緒に考えませんか? 残業後に近くのカフェで」
その誘いに、私は頷いた。
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夜9時過ぎ、静かなカフェの片隅で二人は資料を広げた。
「このターゲット層……もう少し『日常の中の小さな非日常』を強調したら、どうでしょう?」
美咲の提案は的確で、愛子の感性にも近いものがあった。
「いい視点だ。高橋くんの案を軸に、少し広げてみよう」
会話が仕事から少し離れたとき、美咲が突然小さく笑った。
「山田さんって、最近本当に変わられましたよね。
以前はもっと一人で全部抱え込んでいたのに、今はこうして一緒に考えてくれる」
「……お前のおかげだよ」
彼女の頰が少し赤くなった。
「私、山田さんの隣で働けることが、すごく嬉しいんです。
仕事も、それ以外のことも……」
言葉の続きを、彼女は飲み込んだ。
その沈黙が、妙に優しくて、重かった。
カフェを出た後、駅まで並んで歩いた。
「美咲」
「はい」
「今日もありがとう。お前がいると、少し楽になる」
彼女は目を輝かせて微笑んだ。
「私もです。山田さん」
マンションに帰宅した私は、ベランダに出て夜風に当たった。
新しい仕事の波。
美咲の優しさ。
そして、まだ整理しきれていない遥香の想い。
全部が同時に押し寄せてくる。
でも、今日は少しだけ、前に進めた気がした。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、新しい仕事と、美咲の優しさに支えられて、少し前向きになれました……」
まだ答えは出ていない。
それでも、この波の中で、私は泳ぎ続けている。




