第23章 遥香の時間
週末の土曜日、私は遥香と約束したカフェに向かっていた。
彼女が指定したのは、静かで落ち着いた雰囲気の店だった。
遥香はすでに席に座っており、白のニットに淡いグレーのスカートという、柔らかい服装で待っていた。
「悠真、来てくれてありがとう」
「久しぶり。遥香、元気そうでよかった」
会話は最初、穏やかに進んだ。
共通の思い出話、最近の仕事のこと、互いの近況。
しかし、コーヒーが運ばれてくる頃、遥香の表情が少し変わった。
「悠真……正直に聞きたいの。
今、私のことをどう思ってる?」
ストレートな質問に、言葉が詰まった。
遥香は静かに続けた。
「別れた後、ずっと後悔してた。
もっと悠真の負担を減らしてあげればよかったって。
事故のニュースを聞いたとき、本当に怖かった……もう二度と会えないかもしれないって思った」
彼女の目が潤んでいる。
「だから、もう一度ちゃんと向き合いたい。
悠真が今、どんな気持ちで生きてるのか、知りたい」
胸が痛かった。
遥香の想いは本物だ。
過去を共有している分、美咲にはない「深さ」がある。
でも、今の私は山田悠真でありながら、佐藤愛子でもある。
「遥香……俺は、事故の後で本当にいろんなことが変わった。
価値観も、感じ方も……
だから、今すぐ答えを出すのは難しいんだ」
遥香は寂しそうに微笑んだが、優しく頷いた。
「わかった。無理にとは言わない。
ただ、悠真の隣にいたいという気持ちは、今でも本気だから」
カフェを出た後、彼女は私の腕を軽く抱いた。
「少しだけ、このまま歩こう?」
秋の風が心地よい中、二人は並んで街を歩いた。
遥香の体温が、近くに感じられる。
家に帰った私は、ベッドに横になりながら天井を眺めた。
美咲の純粋な優しさ。
遥香の深い想い。
どちらも魅力的で、どちらも傷つけたくない。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、遥香の想いを改めて感じて、ますます答えが出せなくなりました……」
三角関係の波は、想像以上に大きくて複雑だった。
でも、この葛藤の中でも、少しずつ私は成長している気がした。




