第21章 静かな決意
成功から一週間が経ったある夜。
私は久しぶりにジムに行った。
夜遅くのジムは人が少なく、静かだった。
ベンチプレスを終え、汗を拭きながら鏡の前に立つ。
そこに映るのは、鍛えられた27歳のイケメンサラリーマン。
でも、心の中はまだ17歳の女子高生のままだった。
ロッカールームで着替えていると、ふと自分の体に手を当てた。
この広い肩、厚い胸、力強い腕。
最初は拒絶していたこの体が、今では少しずつ「自分のもの」に感じられるようになってきた。
家に帰り、シャワーを浴びた後、ソファに座ってビールを開けた。
頭の中で、これまでの出来事が走馬灯のように蘇る。
- 目覚めた瞬間のパニック
- 初めての出勤
- ジムでの違和感
- 美咲の優しさ
- 遥香の想い
- 仕事での成功と挫折
- 愛子の家族を思い出した夜
私は深く息を吐いた。
「俺は……誰として生きるべきなんだ?」
山田悠真として、仕事をして、恋をして、普通の大人として生きる。
それとも、佐藤愛子として失ったものをずっと引きずり続けるのか。
スマホを開き、愛子の母親のSNSをもう一度見た。
母親は最近、笑顔の写真を少しずつ上げ始めていた。
「前を向こうとしている」ように見える。
「……お母さん、私、頑張ってるよ」
小さく呟いた。
その夜、私は初めてノートパソコンを開き、
「佐藤愛子」として残したいことを書き始めた。
日記ではない。
ただ、自分の気持ちを整理するための、未来への手紙のようなもの。
書き終えたとき、心が少し軽くなった気がした。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、自分の人生をちゃんと受け止める決意をしました……」
まだ答えは完全に出ていない。
でも、迷いながらも前に進もうと、初めて本気で思えた夜だった。




