第19章 本番の舞台
火曜日の午前10時。
A社の大会議室は緊張感に満ちていた。
新任の役員をはじめ、10名以上の関係者が席に着いている。
私はスーツをぴんと着こなし、資料を手に壇上に立った。
心臓が激しく鳴っている。
手が少し震えそうになるのを、意志の力で抑え込んだ。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
山田悠真と申します。新しい提案をさせていただきます」
プレゼンが始まった。
これまで何度も練り直した資料。
愛子の視点で考えた「日常の共感」と、悠真の経験で磨いた「現実的な戦略」を融合させた内容。
「私たちは、ただ商品を売るのではなく、『忙しい毎日に寄り添う小さな特別感』を提供したいと考えています」
スライドを進めながら、声に力を込める。
新任役員は無表情で聞いている。
時々メモを取る手が止まる瞬間があり、こちらの緊張をさらに高めた。
プレゼン中盤で、想定外の質問が飛んできた。
「このターゲット設定だと、若年層の取り込みが弱いのではないか?」
一瞬、頭が真っ白になった。
しかし、愛子の感性が自然に言葉を紡いだ。
「確かに若年層は重要です。しかし、今回の商品は『憧れの生活』を売るものだと考えています。
30代主婦が憧れる姿を体現することで、結果として若い世代も『将来こうありたい』と共感する構造にしています」
役員がわずかに頷いた。
最後まで滑らかにプレゼンを終え、私は深く頭を下げた。
「以上です。ご検討のほど、よろしくお願いいたします」
会議室を出た瞬間、膝の力が抜けそうになった。
控室に戻ると、待機していた美咲と佐々木が駆け寄ってきた。
「山田さん、お疲れ様です! すごく良かったですよ!」
「悠真、ナイスだったぞ!」
結果は即日出るとのことだった。
その夜、マンションで待っている間、スマホを何度も確認した。
午後8時過ぎ、ついにメールが届いた。
件名:**提案採用のお知らせ**
本文を開いた瞬間、思わずガッツポーズをした。
「やった……!」
A社から正式に採用の連絡。しかも「非常に高い評価だった」とのコメント付きだった。
すぐにチームのグループチャットに報告すると、祝福のメッセージが殺到した。
特に美咲から。
【美咲】
山田さん!! おめでとうございます!!
本当に、本当にすごいです!!
私はベッドに寝転がりながら、達成感に浸った。
この体で、初めて大きな壁を乗り越えた気がする。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、仕事で大きな成果を出せて、素直に嬉しかったです……」
でも、心のどこかでまだ寂しさもあった。
愛子の家族に見せたい。
この頑張りを、母親に自慢したい。
それでも、今は前を向く。
この人生を、もっと強く生きていくために。




