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この体、男子ですけど何か?  作者: 蒼狐


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第18章 遠い家族

プレゼン準備の合間を縫って、私は久しぶりに一人で街を歩いていた。


頭を冷やしたくて、目的もなくぶらぶらと散歩していると、ふと足が止まった。


——佐藤愛子の通っていた高校の最寄り駅だった。


無意識のうちに、足が記憶のある方向に向かっていたらしい。


駅前のベンチに座り、遠くの校舎の方を見つめる。

もう卒業式も終わっているはずだ。愛子は事故で亡くなったことになっている。


スマホで検索すると、愛子の名前はまだ「交通事故で亡くなった元生徒」として、友達の投稿に残っていた。


母親の名前で検索をかけると、SNSの非公開アカウントがヒットした。

プロフィール写真は、愛子と撮った家族写真のままだった。


胸が締め付けられる。


(お母さん……元気にしてる?)


愛子としての記憶が、鮮やかに蘇る。

朝の喧嘩、母親が作ってくれた弁当、夜遅く帰ったときに残してくれていた夕飯……。


今、この体で生きている私は、悠真として充実した毎日を送っている。

でも、愛子として失ったものは、決して取り戻せない。


その夜、マンションに戻った私は、珍しくウィスキーを少し飲んだ。


ベランダに出て、夜空を見上げる。


「ごめんね、お母さん……

私はここで、生きてるよ」


言葉にすると、涙がこみ上げてきた。


男の体で泣くのは、まだ少し気恥ずかしい。

声が低くて、手が大きい。でも、今は誰にも見られていない。


遥香の想い、美咲の優しさ、仕事のプレッシャー、そして失った家族。


全部が胸の中で渦巻いている。


「私は……誰なんだろう」


山田悠真として生きるべきか。

佐藤愛子として、過去を忘れられないのか。


その答えは、まだ見つかっていない。


次の日、プレゼン準備を再開しながら、私は静かに決意した。


せめて、遠くからでも家族が幸せでいられるように、

この体でできることをしよう。


「この体、男子ですけど何か?

今日は、失った家族のことを思い出し、胸が痛くなりました……」


でも、前に進むしかない。


この人生を、ちゃんと自分のものにするために。

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