第15章 突然の危機
月曜の朝、出社した瞬間から異変を感じた。
営業部のフロアが妙にざわついている。
私のデスクに着くなり、佐々木が深刻な顔で近づいてきた。
「山田、ヤバいぞ。A社から緊急の連絡が入ってる」
「緊急?」
「今朝、急に担当者が代わったらしい。新任の役員が『前回の提案は却下』って言ってる。
しかも、来週の再プレゼンで全く新しい方向性を出せって……」
部長が私を呼びに来た。
「山田、悪いがこの案件、お前にかかってる。
新任役員はかなり厳しい人だと聞く。失敗したら、チーム全体の責任問題になりかねない」
プレッシャーが一気にのしかかった。
先週ようやく成功したと思った矢先の出来事だ。
しかも完全にゼロベースでの作り直しを求められている。
午前中からチームミーティングが始まった。
皆が疲弊した顔をしている中、私はホワイトボードの前に立った。
「一旦、これまでの方向性を全部捨てよう。
新任役員が何を求めているか、徹底的に調べる」
美咲が手を挙げた。
「山田さん、私が新役員の過去のインタビューや発言をまとめてみます!」
「頼む。高橋くん」
その日から、連日深夜までの作業が始まった。
火曜、水曜……
提案書を何度も作り直し、市場調査をやり直し、クリエイティブを何パターンも考える。
木曜の夜、午前2時。
オフィスに残っているのは私と美咲だけになっていた。
「山田さん……もう限界じゃないですか?」
美咲が心配そうに声をかけてくる。
彼女も相当無理をしているはずなのに、私の体調を気にしてくれている。
「もう少し……もう少しで形になりそうなんだ」
私は目をこすりながら言った。
美咲が私の隣に座り、そっと肩に触れた。
「山田さん、一人で抱え込みすぎです。
私にできることがあれば、なんでも言ってください」
その温もりに、胸が熱くなった。
遥香の想い、美咲の献身、仕事の重圧。
全部が同時に押し寄せてきて、頭がくらくらする。
金曜の朝、ほとんど徹夜明けの状態で最終案をまとめ上げた。
しかし部長の反応は厳しかった。
「山田……これではまだ弱い。
新役員を納得させられる『衝撃』が足りない」
締め切りは来週火曜日。
残り時間はあと4日しかない。
マンションに帰った私は、ベッドに倒れ込みながら天井を見つめた。
体は限界に近い。
心も、遥香と美咲の間で揺れ続けている。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、仕事の危機に直面して、改めて自分の力不足を痛感しました……」
でも、諦めるわけにはいかない。
この人生を、本気で生きるために。




