第14章 もう一度、君と
日曜の夕方、私は遥香と待ち合わせをした。
場所は彼女が選んだ、落ち着いた雰囲気のレストランだった。
前回より少し格式が高く、照明が柔らかく、ピアノの生演奏が流れている。
遥香は黒のシンプルなドレスを着ていて、大人っぽく美しかった。
「来てくれてありがとう、悠真」
「こちらこそ。久しぶりだな」
食事が運ばれてくるまでの間、会話は自然に流れた。
仕事の話、最近観た映画、共通の知人の近況……。
でも、徐々に空気が変わっていった。
遥香がワイングラスを傾けながら、静かに切り出した。
「悠真、私……やっぱりまだ諦められない」
その直球の言葉に、フォークを持つ手が止まった。
「別れた後、いろんな人と会ってみたけど、悠真みたいな人はいなかった。
真面目で、仕事に一生懸命で、でもどこか寂しそうで……」
彼女の瞳が真剣すぎて、目を逸らせなくなる。
「事故の後、悠真が変わったって聞いたとき、
もしかしたらもう一度チャンスがあるんじゃないかって思ったの」
胸が痛い。
愛子としての私は「綺麗な人にもう一度好きと言われて嬉しい」という気持ちと、
男としての私は「この体で彼女を抱きしめることの意味」を同時に考えている。
「遥香……俺は今、すごく複雑なんだ」
「複雑?」
「……事故の後、いろんなことが見えるようになった。
自分が今までどれだけ周りを見えていなかったか、とか」
本当のことは言えない。
私が元女子高生だということ、この体が男だということ、
美咲という存在が心に引っかかっていること。
遥香は静かに微笑んだ。
「わかった。急がないよ。
でも、悠真の隣にいたいって気持ちは本物だから……覚えていて」
食事が終わり、店を出た後、少し夜風に当たった。
遥香が私の袖を軽く引いた。
「送ってくれなくてもいいけど……もう少しだけ、一緒に歩きたい」
夜の街を並んで歩く。
彼女の距離が近くて、以前の悠真の記憶が疼く。
別れ際、遥香は私の胸に軽く頭を預けた。
「悠真がいい人であること、変わらないよね」
「……ああ」
家に帰った私は、ソファに深く腰を下ろした。
遥香の香水の匂いが、まだ少し服に残っている。
美咲の笑顔と、遥香の真剣な瞳。
二人が頭の中で重なって、吐息が漏れた。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、元カノに本気で想われていることを、改めて突きつけられました……」
私は目を閉じた。
恋愛という名の、大きな波が近づいてきている気がした。




