第10章 届いたメッセージ
火曜の夜、マンションに帰宅した私はソファに倒れ込むように座った。
今日も仕事は厳しかった。A社の案件は修正を重ねても「もう一歩」というところでクライアントに刺さらず、チーム全体の空気が重くなっている。
シャワーを浴びてビールを開け、ぼんやりとテレビをつけた瞬間——スマホが振動した。
画面に表示された名前を見て、息を飲んだ。
**藤崎遥香**
【メッセージ】
悠真、元気?
先日の再会以来、気になってしまって……
もしよかったら、今週末にでも時間あるかな?
ゆっくり話したいことがあって。
指が止まった。
心臓の音が少し速くなる。
愛子としての私は「元カノから連絡きた!?」と動揺し、男としての私は「どう返せばいいんだ……」と冷静に考えようとする。
結局、30分以上悩んだ末にシンプルに返した。
【返信】
遥香、メッセージありがとう。
週末なら土曜の夜は空いてるよ。
場所は任せる。
送信した瞬間、後悔と期待が同時に湧いてきた。
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土曜の夜、遥香が指定したのは、以前よく行っていた落ち着いたイタリアンレストランだった。
店に入ると、遥香はすでに席に座っていた。
淡いベージュのワンピースを着て、髪を軽くまとめた姿は、以前と変わらず綺麗だった。
「来てくれてありがとう、悠真」
「久しぶり。よくこの店覚えてたな」
食事が運ばれてくるまでの間、会話はぎこちなかった。
仕事の話、天気の話、共通の知人の話……そして、徐々に本題に入っていった。
「別れてから、ずっと考えてたの。
私が悠真に負担をかけすぎてたんじゃないかって」
遥香はワイングラスを傾けながら、静かに言った。
「悠真はいつも完璧に頑張ってるように見えて……本当は寂しかったんじゃないかなって、今になって気づいた」
その言葉が、胸に深く刺さった。
(寂しかったのは、悠真じゃなくて……今の私かもしれない)
私はフォークを置いて、彼女の目を見た。
「遥香、俺も悪かった。仕事に逃げて、ちゃんと向き合わなかった」
そこで言葉が詰まる。
本当は「俺は今、17歳の女子高生の心を持ってる」とは言えない。
この体が男で、彼女の元彼としてここに座っていること自体が、ものすごく複雑だ。
食事が終わり、店を出た後、夜の街を少し歩いた。
「悠真……もう一度、やり直せないかな」
遥香が立ち止まって、小さな声で言った。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
美咲の笑顔が一瞬浮かび、すぐに消える。
「……少し、時間をくれないか。
今、俺自身も色々考えてる最中で」
遥香は寂しそうに微笑んだが、優しく頷いた。
「うん、待ってる」
別れ際、彼女は軽く手を振ってタクシーに乗り込んだ。
家に帰った私は、ベッドに横になりながら天井を睨んでいた。
遥香の言葉、美咲の優しさ、仕事のプレッシャー、そして自分の正体。
全部が絡み合って、息苦しい。
「この体、男子ですけど何か?
今日は、元カノに『やり直したい』と言われて、気持ちが大混乱です……」
私は枕に顔を埋めた。
この新しい人生、恋愛だけは本当に予測不能だ。




