⑧ 非公式マスコット
「どうされましたか?」
ちょうどそのタイミングで、サン・ジェルマン伯爵が、エレベーターから出て来た。ついさっきまで、たまたまレストランで一緒に居た、由理子の事が心配になり、様子を見に来たのだ。
「伯爵、実は……。」
カグヤが、事のあらましを彼に説明した。
「成る程。そういう事ですか。」
どうやら伯爵は、事情が分かったようだった。
「あの……伯爵。」
「何だい?由理子さん。」
「この子が、捨てないでって言ってます。」
由理子が、申し訳無さそうにそう言った。
鵺がジト目で、伯爵を見ている。
「……イイでしょう。ちょうど年末にセキュリティの検討もしていた事ですし、特例として、我がサロンの番犬代わりに雇いましょうか。」
「ホントですか!?」
そう言って一番に喜んだのは、実は成雪だった。
カグヤが帰還の運転中、後席の鵺を気遣って、熱心に手当てしていたのは、何を隠そう、彼だったのだ。
成雪は勝手に、この合成生物にシンパシーを感じていたのだ。多分、自分自身が不自然な成り立ちで産まれた生き物……雪村の細胞から産まれたクローン人間だからだろう。彼にはそういう自覚が有った。
そして鵺も、今やそんな成雪に、良く懐いていた。それに、よく見るとカワイイ……訳は無いが。
まあ何しろそんな訳で、その日から非公式マスコットとして、名護屋テレビ塔の亜空間レストランに、鵺が常駐する事になったのである。
どうやらエサは、取り敢えずドッグフードとかでイイらしい。今後は様子を見ながら、出来るだけ、美味しいモノを食べさせてあげたいな。そんな風に思う由理子だった。
それから何日間かは、鵺の存在が、訪問者をギョッとさせる事が続いた。そういう意味では、番犬の役割を果たしていると言えそうだった。村田京子などは、鵺を見た瞬間に取り乱し、大量の冷気を出して、その辺を雪と氷で真っ白にしてしまったのだ。
でもヒトは慣れる生き物である。その内に誰も鵺の事を怖がらなくなり、終いには、"ヌエちゃん"、なんて親しみを込めて、愛称で呼ぶようになっていたのである。
まあ、明るい日の光りの元や、バッチリ照明の当たったレストラン内に居る限り、さしもの怪異も、その不気味さを発揮出来ないというものだ。
今や、ちょっとリアルな形の、"ゆるキャラ"だと思えば、その恐ろしいルックスも、我慢出来なくも無かった。




