㉙ 可愛い居候
「実はですねえ……貞子さん。」伯爵が若干言葉を濁す。
「……はい?」怪訝な顔で答える貞子。
「多分、本当に困った事態を迎えるのは……これから約半年後なのですよ。」
「……ああ、その点でしたら、承知しております。お祖母様から、早めにこちらに来て、異世界での生活に慣れなさいと、申し付かっておりますので。」
「……つまり、暫くの間、こちらで居候しろと?」
「はい。お世話になります。掃除、洗濯、料理など、何でも致しますので、どうかお側に置いて頂きたいと存じます。」
「私、個人的には一向に構わないのですが、一応このサロンの他のメンバーにも、了解を取る必要が有りますね……。」
(あれっ?デジャヴかしら。巫女姿の少女とのこんなやり取り、前にも見た事が有るような……確かあの時は……。)二人の会話を聞いていた雪子が、そこまで思い出しかけた時だった。(第18巻 参照)
「おはよう、伯爵。私もパーティーの後片付け、手伝うわよ。」
そう言いながら、エレーベーターの中から出て来たのは、今日も黄色いワンピースを着た伯爵の内縁の妻、村田京子だった。
京子はすぐに、巫女姿の少女を見咎めた。
「あら、こんなに朝早くから、どちら様かしら?」
「おはようございます。今日からこちらでお世話になります。下賀茂神社から参りました、藤原貞子と申します。」彼女は爽やかに挨拶した。
京子は少し沈黙した後、伯爵に向かって口を開いた。
「まったく、貴方って人は……何人オンナを囲えば気が済むのよ?このレストランを、ハーレムにでもするつもりなのかしら?」
眉間に皴を寄せて言う彼女に、伯爵も焦りを見せる。
「京子さん、コレには深い事情が有ってですねえ……。」
そんな伯爵の様子を見た京子が、こらえきれないように吹き出した。
(ああっ、京子様、ついにご乱心か?)と雪子がそう思った、その時だった。
「……なあんてね?馬鹿ねえ、分かっているわよ。この子は私の御先祖様だわ。だってそう感じるもの。」
そうなのだ。
彼女の先祖は、代々下賀茂神社で巫女を務める、氷雪系のチカラを持って生まれる家系なのだった。
「はじめまして、ご先祖様。私は、長きに渡る家系の中で、初めて巫女の役目から解放された子孫で、村田京子といいます。どうぞよろしく。」
「あら、何て奇遇な事でしょう。こちらこそよろしくお願いいたします。」
二人は、にこやかに挨拶を交わし合った。
(修羅場にならなくてちょっと残念、なんて思うアタシは、ダメなオンナね。)
などと雪子は思い、少し反省した。




