㉘ 懐かしい訪問者
それは、運命の日までついに半年となった、1999年1月3日の日曜日。時刻は午前7時頃の事だった。
鵺とスフィンクスが見張っている、名護屋テレビ塔の、亜空間レストランのエレーベーターの扉が開き、とある少女が出て来たのだ。しかし、二頭のバケモノたちは、大した反応を見せなかった。つまりそれは、無害な人物だという事を意味する。
少女は巫女の服装を身に纏っており、左肩にはカラスによく似た生き物を、まるで"サトシのピカチュウ"のように乗せていた。ソレはカラスにしては少々大きめで、脚が3本有った。つまりソレの正体は、"八咫烏"だった。
少女はキョロキョロと辺りを見回すと、まず、目の前に行儀よく"お座り"の姿勢で控えている、二頭のバケモノにギョッとした。
しかし次に、昨日の宴会で散らかったカウンターを片付けている、真田雪子とサン・ジェルマン伯爵を見つけて、笑顔になった。
「ご無沙汰しております!」少女は二人に向かって、元気に挨拶をした。
伯爵と雪子は、声のした方を振り返る。
二人とも一瞬、にわかには、ソレが誰なのか認識出来なかったが、やがて、とても久しぶりに見る顔だと分かった。
ソレはあの1796年からやって来た、下鴨神社の"時を駆ける巫女"こと藤原貞子だったのだ。(第16巻参照)
「おやおや、どうされたんですか?遥々こんな所まで、時空を超えて……?」と伯爵。
「お元気そうでナニよりね。多分、何か大切な用事が有るのよね?」と雪子。
「実はウチのお祖母様……つまり藤原節子が、そろそろ伯爵が困る頃だから、これまでの御恩返しも兼ねて、助けに行ってらっしゃいって……。それで、下鴨神社の鳥居にポータルを開けて下さって、そこの扉がその出口になっていたのです。」そう言いながら、彼女はエレベーターの自動ドアを指差した。
「貴女のお祖母様には、私の居場所も未来も、お見通しという訳なのですね。素晴らしい千里眼だ。」
正直な話、伯爵はかなり驚いていた。
「過去にご縁があった方の居場所は、いつどこに居ても、察知できるそうなんです。凄いですよねえ。」
どうやら貞子自身も、驚いているらしい。
「ところで、肩の上のソレは何かしら?」雪子が質問する。
「コレは、最近私の眷属になってくれた八咫烏なんです。でも"しもべ"というよりは、むしろチカラも知恵もある、頼もしい友なのです。ヒトの言葉も話せるんですよ。」
『ヨロシク。ヤタちゃんと呼んでくれてイイぞ。』
すると早速、そのカラスが喋ったのである。
「いいわね、そういうの。最近私も、眷属ってヤツとの関係に、少しだけ憧れるわ。」
これまでは、孤独を愛する傾向があった雪子にも、少しずつ変化が訪れつつあった。
最近の彼女には、メジェドも鵺もスフィンクスも、何だか可愛く思えるのだ。




