㉗ 新しい番犬
「ただいまあ~。」
由理子が、いつものように元気な声を出して、エレベーターから出て来た。
亜空間レストランには、サン・ジェルマン伯爵とパートナーの村田京子、それに杉浦鷹志も居た。
多分、地下室でやっていた研究も、一段落したのだろう。
「お帰りなさい。香子さんもお疲れさまでしたって……あれっ?」
流石の伯爵もびっくりしたようだった。
エレベーターから由理子、香子に続いて、ノソノソ出て来たのは、あの"スフィンクス"だったからだ。
「由理子さん、コレは一体どういう……?」思わず尋ねる伯爵。
「ああ、私の独断で連れて来てしまったの。現場では死んだ事になっているから、ウチの番犬代わりにイイかなって……。ダメですかねえ?」と香子。
「貴女もなかなかの剛腕ねえ?」と京子。
「そういう事は、事前にご相談して頂かないと……第一、ウチにはもう"ヌエくん"という番犬が居ますから。」
そう言われた鵺も、エレベーター扉の右側で不満顔だった。
「だから、スフィちゃんには、エレベーターの左側に座ってもらったら、ちょうど一対の狛犬みたいで、いいんじゃないかなあって。」
香子はいつの間にか、スフィンクスをニックネームで呼んでいる。
「はあ、そうですか……まあもう一度、元の世界に戻すのもアレですし、仕方がない……そうしますか。」
伯爵があっさり折れた。彼もスフィンクスが仲間になる事に対しては、満更でもないらしかった。
「ありがとう、伯爵。良かったわね、スフィちゃん。」
「その"スフィちゃん"というのは、我れの事か?」
「そうよ。」
「眷属になる約束はしたが、名前の改名までは、契約に入っていないぞ。」
「堅い事を言わないで。ただのニックネームよ。」
「ニックネームとは何だ?」
「親しみを込めて呼ぶ、名前の変形バージョンよ。貴女はもう、私たちの家族だからね。」
「やれやれ……ヘーラー様に何と申し開きをしたものか……?」
「イイんじゃない?アッチの世界では貴女はもう、死んだ事になってるんだから。」
「後でどうなっても、知らないからな。」
「はい、はい。私たちには、古代エジプトの神々が憑いてるんだから。もうナニが来ても、貴女を返さないわよ?」
香子は余程、スフィンクスの事が好きなのだろう。珍しく執着心を露わにした。
そんな訳で、スフィンクスの定位置は、エレベーターの左側になった。
鵺と向かい合ってお座りすると、なかなかイカツイ景色だ。コレで、そうおいそれと不審者が侵入することも無かろう。
(ヌエくんスフィちゃんか……頼もしい番犬が揃ったな。)
ますます肩身が狭い思いになる、鷹志であった。




