㉒ 古代ギリシア
年も押し迫った1998年12月26日の土曜日。時刻は午後3時頃。
久しぶりに真田香子が、名護屋テレビ塔の亜空間レストランにやって来た。
小学校教諭の彼女は、冬休みに入って仕事も一段落したのだ。
今日も上は水色のチェックのシャツに、下はブルージーンズといういで立ちだ。ただ外は寒いから、その上から紺色のダッフルコートを羽織っている。
「こんにちは。ウチのユッコはいるかしら?」
「ああ、お姉ちゃん。久しぶり。元気だった?」
バーカウンターの中から、由理子が顔を出した。
隣に姿が見えないから、どうやらまた、杉浦鷹志は研究室に籠って居るようだ。
「久しぶりに、調査に付き合ってくれないかしら。最近は、神獣特集をやってるんでしょう?それならどうしても、文字通りの意味で、避けては通れない相手が居るのよ。」
「いいわよ、よろこんで!伯爵、出かけてもいいでしょ?」
由理子は、窓際のテーブルセットを整えている、サン・ジェルマンに尋ねる。
「ああ、どうぞ行ってらっしゃい。お店の方は、今日はもう大丈夫だから。久しぶりに、姉妹水入らずもイイんじゃないですか?」
伯爵も快く許可を出した。最早二人の間柄は、家族同然ではあるが、一応、従業員とオーナーの関係だから、このやり取りは必要だ。
「ありがとう。じゃあお姉ちゃん、早速行こうか?」
彼女の決断と行動は、いつも早い。
座右の銘は"善は急げ"に違いないと、香子は思った。
由理子は当たり前のように、赤いウイッグとメイド服姿のまま、姉と共にエレベーターで地下駐車場に向かう。そして赤いワーゲンビートルに乗り込んだ。
姉が助手席でシートベルトを締めるのを確認すると、由理子がセンターコンソールパネルに、目的地の座標を入れる準備をした。
「で、どこに行くの?お姉ちゃん。」
「古代ギリシアの都市国家、テーバイよ。私が入力するわ。」
香子はそう言うと、以下のように入力した。
B.C.1600年9月10日
時刻07時00分
北緯38度19分
東経23度19分
「じゃあ、出発して。」
「了解です、お姉ちゃん!」
由理子は、いつものように地下駐車場からクルマを出し、光学迷彩を透明モードにするとそのまま垂直上昇させ、そこで時空転移装置のスイッチを入れた。
移動中、姉が妹に語り掛ける。
「ああ、そう言えば、まだ言ってなかったけど、今回の相手は、あのスフィンクスよ。」
「そうか。確かにまだソレ、ノータッチだったわね。エジプトの神々にも近い間柄なのに……灯台元暗しってところね?」
「多分、あのオイディプスよりも先に出会うから、ちょっとしたクイズを出されるわよ。解答をよろしくね?」
「有名なアレよね?まかせて。」由理子は元気に引き受けた。




