⑮ アエテルナエ
二人は駐車場に着くと、黒いワーゲンビートルに乗り込んだ。
運転席にはサン・ジェルマン伯爵、助手席には京子という、お馴染みのポジションだ。次に伯爵が、目的地の座標を、センターコンソールパネルに、以下のように入力した。
B.C. 327年10月2日
時刻09時00分
北緯28度00分
東経80度00分
「では早速参りましょう。」
伯爵はそう言うと、いつものようにクルマを出し、光学迷彩を掛けると垂直上昇させ、時空転移装置のスイッチを入れた。
出現した先は、北インド平原の、ど真ん中辺りの上空だった。
そこはインドの北部を、東西に約3000kmに渡って連なる大平原だ。
インダス川やガンジス川の流域を含む、肥沃な大地だ。
今まさに西から、そこへ砂埃を上げながら侵入して来る、大軍勢が見て取れた。
「アレクサンダー大王の、御一行様ね?」
京子が呟くと、隣でサン・ジェルマンも頷いた。
やがて彼等の行く手を阻むモノが、眼下の木陰から現れた。
ソイツは一見、ただのホワイトタイガーのように見えた。しかしよくよく見ると、頭にまるでノコギリの刃のような、トゲトゲが一列に並んでいる。そして体長が異常に大きい。頭から尻まで、ざっと5mはありそうだった。
アレクサンダーの軍勢の先鋒は、構わず突き進む。そして遂に、騎馬兵の集団とその怪物が、ぶつかり合ってしまった。しかし、誰一人その化け物には敵わず、その場を突破出来ない。
その名をアエテルナエと言いう、その怪物は、襲い掛かって来る全ての兵を、時には馬ごと、バッタバッタと薙ぎ倒していった。
やがて大王の合図で、一旦攻撃の手が休められた。
そして何と、アレクサンダー自らが、その化け物の目の前に姿を見せたのだ。
「恐らくお前は、インドの神の遣いだと、察しはついている。」
彼は化け物に向かって話し始めた。
「だが、何とかここを、通してはくれまいか?インドの王が、この地を統治する者として、相応しい器を持つと見極めた暁には、我々はそれを、悪いようにはしないつもりだ。」
化け物は黙っている。
「もちろん、必要とあらば、お前のために供物を捧げよう……どうだ?」
するとアエテルナエは踵を返し、ゆっくりと木陰の中に戻って行った。契約成立と言う訳か?それにしても、まさかアレが、人語を解するとは……。京子は少し、意外に感じたのだった。




