⑯ 怪物の正体
大王の軍勢が、全てその場から立ち去ると、伯爵と京子は、クルマを地上に降ろして下車し、怪物の跡をつけて、林の中に入って行った。
すると二人はそこで、信じられないモノを見た。
大きな岩の上に、まるでニンゲンのような姿勢で座った怪物は、おもむろに前脚を頭にやると、そこにハマっていた、ノコギリのようなトゲトゲが付いた兜を、まるでカツラを取るように脱いだのだ。
結果的にその姿は、ただの大きな、ホワイトタイガーになったのだが、本当に驚くのはそこからだった。
何と、その大きなホワイトタイガーのカラダが、段々と縮んで行き、同時に毛皮も無くなり、最後には白くてツルツルな素肌で銀髪の、可憐な少女の姿になってしまったのだ。やがてその少女は、ナニ食わぬ顔で、近くに隠してあった衣服を纏い、岩の上から地上に降りて来たのである。
「こんにちは。」
そのタイミングを見計らって、最早、怪物でも何でも無いその少女に、京子が声を掛けた。もちろん、左腕のデバイスの自動翻訳機能を使っているから、彼女にはプラークリット語に聞こえているはずだ。
少女は突然の来訪者に、カラダをビクッと震わせながら「誰!?」と言った。
「ああ、そんなに警戒しなくてもいいのよ。私たちは、ただの通りすがりの旅の者よ。」
京子は、出来るだけ穏やかな声で、そう言った。
伯爵も隣でにこやかな顔をして、会釈をして見せた。
「私はサン・ジェルマン伯爵という者です。そして先程から話し掛けているこちらは、妻の京子です。私たちは、世界の東の果ての、日本という国からやって来ました。」
「それにしても貴女、素敵な変身能力をお持ちなのね?」
いきなり核心に触れる京子。
「……見られたからには、貴女たちを、生かして帰す訳にはいかないわ。」
眉を釣り上げて、そんな事を言い出す少女。
「でも、私の見立てによると、あの変身状態で大きなチカラを使うと、しばらくはアレに成れないのじゃないかしら?」
相変わらず冷静な調子で語る京子。
「……クッ!」ほぞを噛む少女。
「まあ、まあ、京子さん、そんなに責め立てたりしないで……。」とりなす伯爵。
「あら、アタシはただ、冷静にお話をしているだけよ?」
「でも、その子が困っているでしょう?」
「ああ、ごめんね?私、まわりくどい喋りが苦手なのよ。悪気は無いのよ?」
気づくと少女は、涙目になっていた。
彼女がさっきまで、あんなに恐ろしげな怪物だった事が、信じられなくなる。




