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その時代を生きた人々 - フランス革命  作者: Miris
第3部:近くに来た王が、信じられない王になる

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8/19

第8話:パリに来た王

注記: 本作は史実をもとにした歴史フィクションです。

人物の会話、心理描写、一部の出来事の流れには創作を含みます。

史実そのものの解説は、本文最後の「櫻未來の歴史メモ」で補足します。


 ******


今回の登場人物


ルイーズ:テュイルリー宮殿で働く侍女。王家を近くで見ながら、民衆の視線も感じている。

マドレーヌ:パン屋へ通う少女。王が近くに来ても生活が変わらないことに戸惑う。

ジャン・ボーモン:パン屋。王がパリに来ても粉袋の底は変わらないと知っている。

マルセル:兵士。王を守るのか、王を見張るのか、自分の任務がわからなくなっている。


 ******


1789年秋から1790年ごろ、パリのテュイルリー宮殿周辺。

ヴェルサイユからパリへ移った王家は、民衆の近くに置かれることになった。

だが王が近くに来ても、パン屋の列と生活の不安はすぐには変わらなかった。


「王様が近くにいるって、本当?」


マドレーヌがパン屋の列で聞いた。


ジャンは焼き板を動かしながら答える。


「宮殿にいる」


「近い?」


「歩けば行ける」


「じゃあ、頼みに行ける?」


テレーズが列の後ろから言った。


「頼みに行ったから、ここへ来たんだよ」


「でも、パンは増えてない」


ジャンは粉袋を持ち上げた。


「王がパリに来ても、麦が袋に飛び込んでくるわけじゃない」


マドレーヌは宮殿の方を見た。


「近いのに、遠いままなんだ」


テュイルリー宮殿では、ルイーズが窓の隙間から外を見ていた。


庭には人々がいる。


散歩をしている者。


見張るように立つ者。


ただ王家を見たい者。


どの目も、ヴェルサイユの庭で見た目とは違っていた。


同僚の侍女が小声で言う。


「ここは宮殿なのに、まるで店先みたい」


「店先?」


「誰もが、中に何があるのか見たがっている」


ルイーズは返した。


「見たいだけなら、まだいいのですが」


廊下の先で、国王の足音がした。


重くはない。


疲れた人の足音だった。


ルイーズは一礼する。


王は彼女を見たのか、見なかったのか、わからないほど静かに通り過ぎた。


外ではマルセルが警備についていた。


別の兵がぼやく。


「俺たちは王を守っているのか」


マルセルは答えない。


「それとも、逃げないように見張っているのか」


「口を閉じろ」


「おまえもわからないんだろ」


マルセルは庭の人々を見る。


見物人。


監視者。


怒っている者。


祈る者。


彼には、その区別がつかなかった。


マドレーヌはパンを抱え、宮殿の近くまで歩いてきた。


ジャンに頼まれた配達の帰りだった。


門の前でマルセルが彼女に気づく。


「ここで何をしている」


「王様を見たら、パンが増える理由がわかるかと思って」


「わかったか」


「ううん」


マルセルは苦く笑う。


「俺もだ」


窓の向こうで、白い影が動いた。


マドレーヌが息をのむ。


「今の」


「見なかったことにしろ」


「どうして」


「見れば、近くにいると思う。近くにいると思えば、何かしてくれると思う。何もしてくれなければ、余計に腹が立つ」


マドレーヌはパンを抱きしめた。


「じゃあ、遠い方がよかったの?」


マルセルは門の向こうを見る。


「遠い王は、夢でいられる」


ルイーズは上階からそのやり取りを見ていた。


少女の籠。


兵士の迷い。


閉じられた門。


王家はパリに来た。


だが、王と民衆の間には、まだ見えない距離があった。


夜、ジャンの店でマドレーヌが言う。


「王様は近かった」


テレーズが聞く。


「で、何が変わった」


マドレーヌは小さく答えた。


「近い人に何もしてもらえない方が、遠い人より悲しい」


ジャンは窯の火を見つめた。


「それは、怖い発見だな」


 ******


櫻未來の歴史メモ


今回の出来事


ヴェルサイユ行進の後、王家はパリのテュイルリー宮殿へ移りました。民衆にとって王は遠い存在ではなくなりましたが、それは信頼よりも監視に近い状態でもありました。


史実と創作


マドレーヌやルイーズたちは創作人物です。この話では、王が近くに来ても生活不安が解決しないことを、パン屋と宮殿の距離で描いています。


櫻からの問い


王が近くにいることは、人々を安心させたのでしょうか。それとも、何も変わらない現実をより近くで見せてしまったのでしょうか。


 ******


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