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その時代を生きた人々 - フランス革命  作者: Miris
第1部:空の籠が声を持つ

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第3話:閉ざされた扉の前で

注記: 本作は史実をもとにした歴史フィクションです。

人物の会話、心理描写、一部の出来事の流れには創作を含みます。

史実そのものの解説は、本文最後の「櫻未來の歴史メモ」で補足します。


 ******


今回の登場人物


エティエンヌ:若い書記。第三身分の代表たちの言葉を書き留めながら、言葉の力を恐れ始めている。

ルネ:ヴェルサイユの下働き。前話では三部会の会場準備をしており、今回は球戯場へ代表たちを案内する。

アンリ:地方貴族。秩序を守りたいが、閉ざされた扉の前で何かが変わったと感じる。

ピエール:聖職者見習い。祈りと政治の境目が崩れていくことに戸惑う。


******


1789年6月20日、ヴェルサイユ。

第三身分の代表たちは、自分たちこそ国民を代表すると主張し始めていた。

だがその朝、いつもの議場の扉は閉ざされていた。


「鍵が掛かっているぞ」


「まさか」


「押すな。開かない」


エティエンヌは議場の扉に手を置いた。


冷たい木だった。


昨日まで、そこは言葉で争う場所だった。


今日は、誰かの意思で閉ざされた壁になっている。


「なぜ閉まっている」


「王の命令か」


「修理だと言っている者もいる」


「都合のいい修理だな」


代表たちの声が重なる。


ルネは扉の脇で、鍵束を握っていた。


「俺は開けろとは言われていません」


エティエンヌが振り返る。


「では、閉めろとは?」


ルネは首を振る。


「それも、言われていません。ただ、入れるな、と」


周囲が静かになる。


その静けさの中で、アンリが帽子を取った。


「これは、危うい」


代表の1人が食ってかかる。


「危ういのは我々か。それとも閉めた側か」


アンリは答えない。


ピエールが祈るように両手を握った。


「帰れば、争いは避けられるのでしょうか」


「帰れば」


エティエンヌが言う。


「閉め出されれば帰る者だと、証明するだけです」


ルネは目を丸くした。


「でも、扉が開かないなら」


「別の場所を探す」


「会議をする場所ですか」


「いや」


エティエンヌは代表たちを見た。


「帰らないための場所だ」


誰かが叫んだ。


「球戯場がある!」


「そこなら広い」


「雨をしのげる」


「議場ではないぞ」


「議場に入れないのだから、仕方ない」


ルネが前へ出た。


「案内します」


エティエンヌが彼を見る。


「いいのか」


「扉を開けるなとは言われました。でも、道を教えるなとは言われていません」


アンリが苦笑する。


「下働きの理屈に、国が動かされる日が来るとはな」


ルネは肩をすくめた。


「椅子の位置も、下働きが動かしていましたよ」


彼らは歩き始めた。


廊下には足音が響く。


誰かが「国民」と言う。


別の誰かが「憲法」と言う。


エティエンヌはその言葉を胸の中で受け止めるだけで、まだ紙に書かなかった。


球戯場は、議場のように立派ではなかった。


汗と木の匂いがする。


雨の音が屋根を叩く。


だが、閉ざされた扉はない。


代表たちは集まり、声が1つの方へ向かっていく。


「憲法ができるまで、我々は解散しない」


「たとえ命じられても」


「たとえ追われても」


ピエールが震える声で言う。


「これは、誓いですか」


エティエンヌはペンを取った。


「そうです。だから怖い」


「怖いのですか」


「ええ」


彼は紙に言葉を刻む。


「書けば、残る」


アンリが壁際でつぶやく。


「この誓いは、王にも届く」


エティエンヌは書き続けた。


「なら、聞いてもらうしかありません」


やがて声が満ちた。


球戯場は、議場ではなかった。


だが、その日、議場より強い言葉を持った。


終わった後、ルネがぽつりと言う。


「扉を閉められたのに、皆さん、帰らないんですね」


エティエンヌは紙を胸に抱えた。


「閉められたからだよ。別の扉を作るしかない」


ルネは振り返った。


遠くの議場の扉は、まだ閉まっていた。


櫻未來の歴史メモ


今回の出来事


1789年6月20日、第三身分を中心とする代表たちは、閉ざされた議場の代わりに球戯場へ集まり、憲法が制定されるまで解散しないと誓いました。これが「球戯場の誓い」です。



史実と創作


球戯場の誓いは史実です。エティエンヌやルネたちは創作人物ですが、閉ざされた扉を前にした代表たちの不安や怒りを、あなたが近くで見られるように置いています。



櫻からの問い


扉を閉めた側は、彼らを止めたつもりだったのでしょうか。それとも、別の扉を作らせてしまったのでしょうか。


 ******


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