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その時代を生きた人々 - フランス革命  作者: Miris
第4部:王を消しても、不安は消えない

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14/19

第14話:裁かれる王

注記: 本作は史実をもとにした歴史フィクションです。

人物の会話、心理描写、一部の出来事の流れには創作を含みます。

史実そのものの解説は、本文最後の「櫻未來の歴史メモ」で補足します。


 ******


今回の登場人物


エティエンヌ:国民公会の記録に関わる書記。王であった男を裁く言葉を書き留めることに震える。

ガスパール:処刑人の助手。正義を語らず、処刑台の準備を仕事として受け止めている。

マドレーヌ:広場に立つ少女。王が1人の人間として扱われる瞬間を見る。

クレール:元侍女。王家を近くで見てきた者として、裁きの場を遠くから見つめる。


 ******


1793年1月、パリ。

王政は廃止され、ルイ16世は国民公会で裁かれる被告となっていた。

神聖な王という名は消され、紙の上には別の呼び名が置かれようとしていた。


「王と書くな」


エティエンヌは手を止めた。


「では、何と」


「被告だ」


「名前は」


「ルイ・カペー」


エティエンヌはペン先を紙に置いた。


王。


その1文字は書けない。


彼はゆっくりと書いた。


被告、ルイ・カペー。


隣の書記が小声で言う。


「まだ慣れないか」


「慣れたら、もっと怖いです」


議場では声が飛ぶ。


「有罪だ」


「国民への裏切りだ」


「死刑を」


「拘禁を」


「拘禁後に追放すべきだ」


「執行を猶予せよ」


言葉が積み重なる。


エティエンヌはすべてを書こうとした。


だが、書けば書くほど、紙の上で1人の人間が小さくなっていく気がした。


同じころ、広場ではガスパールが処刑台の板を確かめていた。


年上の助手が聞く。


「今日は震えないのか」


「仕事です」


「相手は王だった男だ」


ガスパールは刃を見上げた。


「台の上では、皆、首の高さが同じです」


「言うようになったな」


「思わなければ、手が動きません」


広場の端に、マドレーヌとテレーズがいた。


マドレーヌは背伸びをする。


「見えない」


テレーズが腕を引く。


「無理に見るもんじゃない」


「皆、見に来てる」


「皆が来る場所ほど、帰ってから何を見たのかわからなくなる」


少し離れた場所に、クレールが立っていた。


粗末な外套で顔を隠している。


マドレーヌが気づいた。


「あの人」


テレーズが首を振る。


「声をかけるな」


「知ってる人?」


「知ってるかもしれない人だ」


馬車が来た。


広場の空気が変わる。


歓声。


罵声。


沈黙。


それらが混ざる。


ルイ16世は処刑台へ上がる。


マドレーヌには、王冠も玉座も見えなかった。


見えたのは、寒そうな男だった。


男が何かを言おうとする。


太鼓が鳴った。


言葉は叩き消される。


クレールが両手を握った。


ガスパールは目を伏せなかった。


刃が落ちた。


広場が声を上げる。


マドレーヌは、その声が喜びなのか恐怖なのか、わからなかった。


ガスパールは刃を洗った。


水が赤くなる。


「これで終わりですか」


彼は年上の助手に聞いた。


男は布を絞りながら答えた。


「人は、終わりが欲しい時にそう言う」


「王がいなくなれば終わると」


「言っていたな」


「終わりますか」


男は広場を見た。


「明日の台を片づけてから考えろ」


エティエンヌは後で記録を読み返した。


有罪。


死刑。


1793年1月21日。


どれも正しい。


だが、太鼓に消された声は、どこにも残っていなかった。


 ******


櫻未來の歴史メモ


今回の出来事


ルイ16世は国民公会で裁かれ、1793年1月21日にパリの革命広場で処刑されました。王を「市民」や「被告」として扱うことは、王権神授の世界が終わる象徴でもありました。



史実と創作


エティエンヌ、ガスパール、マドレーヌ、クレールは創作人物です。裁判では死刑だけでなく、拘禁や追放、執行猶予などをめぐる議論もありました。処刑台での細かな会話は創作です。



櫻からの問い


王を人間として裁くことは、自由の勝利だったのでしょうか。それとも、誰もが裁かれうる時代の入口でもあったのでしょうか。


 ******


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