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その時代を生きた人々 - フランス革命  作者: Miris
第4部:王を消しても、不安は消えない

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13/19

第13話:空になった王座

注記: 本作は史実をもとにした歴史フィクションです。

人物の会話、心理描写、一部の出来事の流れには創作を含みます。

史実そのものの解説は、本文最後の「櫻未來の歴史メモ」で補足します。


 ******


今回の登場人物


エティエンヌ:国民公会の記録に関わる書記。新しい言葉が生まれるたびに、その重さを感じている。

マドレーヌ:パン屋へ通う少女。王がいなくなれば暮らしが変わるのか知りたい。

テレーズ:市場の女性。王を倒すことと生活が変わることは同じではないと感じている。

アルマン:革命派の若者。王政を終わらせることが革命を守る道だと信じている。

ジャン・ボーモン:パン屋。政治の言葉が変わっても、店の朝は変わらない。


 ******


1792年9月、パリ。

テュイルリー宮殿襲撃の後、王権は停止され、国民公会では王政廃止と共和国の言葉が響き始めた。

だがパン屋の列は、王がいる時と同じように朝の通りへ伸びていた。


「共和国」


エティエンヌは紙に書いた。


インクが少し滲む。


隣の書記が言う。


「震えているのか」


「手が、少し」


「喜ばしい日だぞ」


「そう書くべきでしょうか」


「そう書け」


議場では声が重なっていた。


「王政は廃止された」


「国民は自由である」


「共和国万歳」


エティエンヌはその言葉を書き写した。


王権停止。


王政廃止。


共和国。


どれも短い言葉だった。


だが、短い言葉ほど多くのものを飲み込む。


同じころ、ジャンのパン屋では、マドレーヌが列に並んでいた。


「王様はいなくなったの?」


「王政がなくなったんだ」


ジャンが答える。


「王様本人は?」


「拘禁されている」


「それでパンは」


ジャンは粉を量る手を止めた。


「増えない」


列の誰かが笑った。


乾いた笑いだった。


「王がいなくても、腹は減るのか」


テレーズが言う。


「王が腹を減らしてくれてたわけじゃないからね」


そこへアルマンが入ってきた。


顔は明るい。


「終わりました」


テレーズが見る。


「何が」


「王政です」


「ああ」


「もっと喜んでください」


「喜ぶには、腹が軽すぎる」


アルマンはマドレーヌへ向く。


「これで、新しい国が始まる」


マドレーヌは首を傾げた。


「新しい国では、母さんの薬も安くなる?」


アルマンは言葉を詰まらせる。


「すぐには」


テレーズが笑わずに言った。


「また、すぐには、か」


アルマンの顔が赤くなる。


「王を残したままでは、何も始まらなかった」


「それはわかるよ」


「なら」


「でも、王をどけただけで何かが終わると思ってるなら、それも危ない」


ジャンがパンを並べる。


「新しい国でも、列は前から順番だ」


アルマンは窓の外を見た。


「順番も変えるために革命がある」


テレーズは静かに返す。


「順番を変えたい人間が、次に誰を後ろへ押すのか。それも見ておきな」


その夜、エティエンヌは議場の片隅で紙を見つめていた。


「共和国」


美しい言葉に見える。


だが、彼はペン先を置けなかった。


アンリの言葉を思い出す。


火は部屋を暖めるかもしれない。


屋根を焼くこともある。


隣の書記が帰り支度をしながら言った。


「まだ書いているのか」


「この言葉も、血を吸うのだろうか」


「何だって?」


「いいえ」


エティエンヌは紙を閉じた。


王の椅子は空になった。


だが、空いた場所を何が埋めるのか、まだ誰も知らなかった。


 ******


櫻未來の歴史メモ


今回の出来事


1792年9月、国民公会は王政を廃止し、共和国を宣言しました。これはフランス革命の大きな転換点ですが、生活不安や戦争の問題がすぐ解決したわけではありません。



史実と創作


エティエンヌたちは創作人物です。パン屋の会話は創作ですが、政治体制が変わっても庶民の生活がすぐ変わらないという感覚を描くために置いています。



櫻からの問い


王政が終わった時、人々は何が終わったと思ったのでしょうか。そして、何がまだ終わっていなかったのでしょうか。


 ******


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