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その時代を生きた人々 - フランス革命  作者: Miris
第3部:近くに来た王が、信じられない王になる

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12/19

第12話:王宮の門


注記: 本作は史実をもとにした歴史フィクションです。

人物の会話、心理描写、一部の出来事の流れには創作を含みます。

史実そのものの解説は、本文最後の「櫻未來の歴史メモ」で補足します。


 ******


今回の登場人物


マルセル:国民衛兵側にいる兵士。誰も撃たずに済ませたいと願っている。

ヨハン:スイス衛兵。王宮を守る命令を受け、王がいない宮殿に残される。

アルマン:革命派の若者。王を残しては革命は守れないと考えている。

テレーズ:市場の女性。怒りの中にある危うさを感じ、アルマンを止めようとする。

クレール:宮殿の侍女。王家の避難と残された兵たちの恐怖を見ている。


 ******


1792年8月10日、パリのテュイルリー宮殿。

戦争と反革命への恐怖が高まる中、武装した民衆と革命派は王宮へ向かっていた。

王家はすでに議会へ避難しようとしていたが、宮殿の門には命令だけが残っていた。


「逃げた王を、まだ王と呼ぶのか」


アルマンの声が門の前に響いた。


群衆が応える。


「王を倒せ!」


「裏切りを許すな!」


テレーズはアルマンの袖をつかんだ。


「声を大きくするほど、自分の声が聞こえなくなるよ」


「今は聞かせる時です」


「誰に」


アルマンは門を指した。


「あそこにいる連中に」


門の内側で、ヨハンは銃を握っていた。


赤い軍服の袖が汗で張りつく。


「王家は」


若い衛兵が聞く。


ヨハンは答えた。


「議会へ向かった」


「では、我々は何を守るのです」


ヨハンは門を見た。


「命令だ」


「命令は、誰を守るのです」


「黙れ」


その声は、自分に向けたものでもあった。


廊下では、クレールが走っていた。


王家の部屋は慌ただしく、椅子が倒れ、布が床に落ちている。


「急いで」


誰かが言う。


「議会へ」


「門は持つのか」


「わからない」


クレールは窓から外を見た。


門の外には、人の波。


門の内側には、取り残された兵。


どちらも怖がっている。


宮殿の外で、マルセルは両手を上げて叫んだ。


「撃つな!」


アルマンが振り向く。


「道を開けろ」


「このまま進めば、誰かが撃つ」


「誰かが撃つ前に、門を破る」


「同じことだ」


「違う。先に動くか、先に殺されるかだ」


テレーズが割って入る。


「アルマン、あんたは王を怖がってる。なのに自分が怖がってることを認めない」


「怖いから進むんです」


門の向こうで、ヨハンがマルセルを見た。


「下がらせろ!」


マルセルは叫び返す。


「王はもういない!」


ヨハンの顔が歪む。


「なら、なおさら下がらせろ!」


「なぜだ」


「守るものがない時の兵は、いちばん危ない」


その言葉は、門の鉄にぶつかって消えた。


誰かが石を投げた。


誰かが銃を構えた。


誰かが「撃たれた」と叫んだ。


本当に撃たれたのか、まだ誰もわからない。


だが、次の瞬間には銃声が鳴っていた。


「伏せろ!」


マルセルがテレーズを引き倒す。


アルマンは前へ走る。


ヨハンは撃つ。


撃たなければ、自分の後ろの若い兵が死ぬと思った。


撃った瞬間、門の外の人間の顔が見えた。


知らない男。


知らないはずなのに、忘れられない顔。


宮殿は破られた。


廊下に足音がなだれ込む。


クレールは柱の陰で震え、血の匂いを嗅いだ。


マルセルは煙の中で叫ぶ。


「もう撃つな!」


誰も聞かない。


ヨハンは壁際に倒れた。


マルセルが彼を見つける。


「生きているか」


ヨハンはかすかに笑った。


「王は」


「いない」


「知っている」


「なら、なぜ」


ヨハンは目を閉じた。


「昨日までは、王宮と王は同じだった」


マルセルは返せなかった。


夕方、王の部屋には椅子だけが残っていた。


テレーズが血のついた床を見て言う。


「いる時も、十分怖かったよ」


マルセルは椅子を見たまま答えた。


「いた時は、誰を見ればいいかわかった」


窓の外で、人々がまだ叫んでいた。


王はいない。


だが、怒りは残っている。


 ******


櫻未來の歴史メモ


今回の出来事


1792年8月10日、テュイルリー宮殿が襲撃されました。王家は国民議会へ避難し、襲撃後に王権は停止され、王政廃止へ進むことになります。



史実と創作


マルセル、ヨハン、アルマン、テレーズ、クレールは創作人物です。ヨハンが宮殿内でマルセルと言葉を交わす場面は創作です。実際には、多くのスイス衛兵が襲撃の中で殺害されました。



櫻からの問い


王がいない王宮を守る兵士は、何を守っていたのでしょうか。命令でしょうか。過去の秩序でしょうか。それとも、退けなくなった自分自身だったのでしょうか。


 ******


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