その4
こうして三人は、秘密を共有しあう仲間として秘密基地で遊ぶようになった。
もちろんペットボトルロケットを試作して打ち上げる事もやっていたが、瀬菜が時々持ち込んでくる玩具のセットを使って、コロとお人形遊びのような事もやっていた。
「よし!フェニックス20号、完成!!」
「ほらー!!私も出来たよ!!」
「ん!!ん!!」
ある日、三人がそれぞれ完成したロケットを見せあった。
「じゃあ、打ち上げ勝負してみようぜ!」
といっても、飛距離は目視で推し量るだけで正確ではないので、打ち上がるさまが最もカッコイイのを三人で決めるという事にした。
「いっせーの、ジャンケンポイ!!」とジャンケンで打ち上げ順番を決める。
「やった!私が一番だ!!」
瀬菜のロケットを最初に打ち上げる事となった。
まずロケットに半分程水を入れ、続いて発射台に固定し、噴射口を装着してからエアポンプで空気を適度に入れていく。
瀬菜はもう慣れた手つきで各ステージをこなしている。
そして遠隔操作グリップを持って自分でカウントダウンを取った。
「3、2、1、0、発射!!」
瀬菜がグリップを勢いよく握ると、ロケットも一瞬で勢いよく打ち上がっていった。
「おぉーー!!すげーきれいじゃん瀬菜!!」
「やったね!!」
「......!」
瀬菜はコロとハイタッチをする真似をした。といってもコロが小さすぎるので、瀬菜がしゃがんでお互いの手のひらをやさしくタッチするだけである。
「続いて俺の番!!」
俊哉もまた、流れるような手つきですばやく打ち上げ準備を済ませ
すぐさまカウントダウンをしてロケットを打ち上げた。
が、ここでアクシデント発生。
俊哉が作ったロケットの接合部分が甘かったのか
打ち上げた瞬間、真ん中からまっ二つに割れて破裂してしまったのだ。
元々そういう事態を想定して、他の二人は離れた所に退避していたので無事だったが
俊哉は割と近い所に居たので、ロケットの水を浴びてびしょびしょになってしまった。
「アハハ、アハアハハハハ!!」
それを見て瀬菜が大笑いする。コロも瀬菜の肩の上で笑いながら踊っている。
「ちっきしょ〜、接合の工夫が足りなかったかぁ〜〜」
前髪から水をぽたぽたと垂らしながら俊哉が唸った。
最後はコロの番である。
といっても、コロはロケットを発射台に組み付けるのも各作業をこなすのも背が低過ぎて出来なかったので、それは瀬菜と俊哉が手伝う事になる。
コロも彼らと一緒になって運ぶロケットに手を添えたりしているのだが、その健気な姿がいっそう可愛らしくみえる。
「よし、コロ行くぞ!!」
遠隔操作グリップをコロに手渡し、俊哉もグリップを握るコロの手の上から自分の手を添えた。
「発射!!」
すると、どう見ても三人の中で一番の勢いでロケットが打ち上がっていった。
噴出された水が霧状になり、夕の茜色に染まり始めた空に綺麗な虹を掛けていく。
「わぁ、コロちゃんのロケット、きれい!!」
目を輝かせながら、コロのロケットが飛んでいく方を見つめていた。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「こんな所で、何をやっている!?」
と、コロのロケットが落ちていった草むらの向こう側から人影がぬっと現れた。
「まずい!!秘密基地がバレたか!?」
俊哉が思わず身構えた、が
「お、お父さん!?」
という瀬菜の言葉にはっとした。
「おい、瀬菜......お前、こんな所で何をやっているんだ?」
「お父さん......」
え?瀬菜のお父さん?と俊哉は思わずしどろもどろになり、首を何度も振りながら二人の顔を見比べてしまった。
「お父さんこそ......こんな所で、何やってるのよ?」
「仕事に決まっているだろう。私達の会社が、この辺りの土地を買ったので私は土地の状態を視察して回っていたのだ」
すると、父親と言う人物の背後から、作業員と思しき人間が何人も現れた。
「上原支部長、どうしました?」
「あちゃー、子供達がいたのか」
彼らは次々にぼやきながら、手にしていた奇妙な測定装置のような棒や三脚をこの廃墟内にセッティングしていく。
「おい!ここで何してんだよ!!」
俊哉が思わず叫びながら作業員達に近寄ると、その父親らしき人物が制止しながら言った。
「それは逆だろう。君達は何の権利があってここに居るのかね?ここはもう私達の土地だ。本来なら不法侵入で訴えても良いんだぞ」
彼が俊哉を睨みつけると、瀬菜が間に割って入った。
「お父さん!!彼にひどい事しないでよ!!」
「瀬菜。お前も早く帰りなさい。最近成績が落ちていると思ったら、こんな所で遊んでいたとはな。帰ったら話があるから、大人しく家で待っていなさい」
「お父さん......」
俊哉も瀬菜も、何も言い返す事が出来なかった。
コロも、いつの間にか居なくなっていた。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
すごすごと家に帰って来た俊哉は、改めて瀬菜とコンタクトを取るべく、パソコンを立ち上げてメールを送った。
返信してきた瀬菜の話だと、瀬菜の父親はメソッドルシファーという有名IT企業北海道支社の支部長だという。
最近は宇宙関連事業を立ち上げて大樹町にロケット研究開発施設を作るべく、事前調査と用地買収を進めているという事だった。
そして、父親にこっぴどく怒られた瀬菜は、しばらく勉強に専念する為に廃墟の秘密基地に来られないという事を伝えて来たのだった。
「ちきしょう......俺だけでもあそこを守らなきゃ」
俊哉はそう心に誓った。
しかし俊哉の誓いは、翌日には無意味なものとなった。
俊哉が放課後に、いつものように廃墟に向かうと、廃墟の周辺が工事用の柵で囲まれてしまっていたのだ。
俊哉はどうにかして、柵の隙間から中に入って廃墟に向かったが
何と、工事用のショベルカーやユンボが何台も群れて、トーチカの廃墟をどんどん壊しているではないか。
「な、何しやがるんだお前らぁ!!止めろーーー!!」
俊哉が叫びながら工事現場と化した廃墟に突入すると、工事の作業員が制止して来た。
「おいお前!!勝手に入ってくるな!!」
作業員に乱暴に押し返された俊哉が目にしたのは、昨日に瀬菜の父親の目を盗んで廃墟の物陰に隠したはずのロケットや発射台などのパーツが無惨に破壊され、そこら中に散らばっている有様だった。
「なんだ、それはお前のか?どうりでゴミだらけだと思ったら」
「ゴミじゃねーよ!!ロケットなんだよ!!」
作業員の嘲笑を浴びながら、俊哉はロケットや発射台だった残骸を拾い集めた。
「あっ、コロのロケットは......どこいったんだよ!」
あの時ロケットが落ちた草むらの方は、もう建機のキャタピラによって、完全に平らにならされてしまっていた。
「ちっきちょーーー!!」
俊哉の叫び声が、工事現場にむなしく響いた。




