第12話 年越しカウントダウン
「やあ、ルシアナ嬢」
「ごきげんよう、ルシアナさん」
駆け寄るルシアナへ、オリヴィアとシエスティーナが笑顔で応じた。
レクトも後に続く。
「すまない、メロディ。途中で知り合いに話しかけられて、少し遅くなってしまった。一応用意したんだが、飲むか?」
申し訳なさそうな顔のレクトは、元々の目的だった飲み物をメロディに差し出した。温かい紅茶だ。温かい紅茶が喉を通ると、体の内側から暖かさが広がり、メロディはホッと息をついた。
「ありがとうございます、レクトさん。ところで、どうしてお嬢様と一緒に?」
「俺がもたついている間に、彼女も君を捜していたみたいだ。テラスへ向かう途中で呼び止められたから、一緒に来たんだ」
メロディがルシアナへ視線を向けると、彼女はシエスティーナ達と話しているところだった。
「ごきげんよう、シエスティーナ様、オリヴィア様。今夜は人が多くて、なかなかお会いできませんでしたね」
ルシアナの挨拶に、シエスティーナは苦笑を返した。
「そうだね。クラスメート達を訪ねて回ったけど、君を見つけられなかったよ」
「王立学園とは関係のない方々とも交流しなければなりませんから、結構大変でしたわ」
同じく苦笑を浮かべるオリヴィアは、疲れたように小さくため息をついた。
「この後は何か予定ってありますか?」
「特に決まっていないけれど、ルシアナ嬢はどうするんだい?」
「私達はこの後、舞踏会の最後に催される年越しカウントダウンを、みんなで一緒にやるつもりなんです。よかったらシエスティーナ様とオリヴィア様もご一緒しませんか?」
ルシアナの誘いに、シエスティーナとオリヴィアは顔を見合わせ、コクリと頷いた。
「ありがとう。参加させてもらおうかな」
「わたくしもお願いします……最後はお友達と一緒がいいですもの」
「やったあ!」
誘いを受けた二人に、ルシアナは満面の笑みを浮かべた。
二人もつられて笑顔になった。
ルシアナはメロディの手を取った。
「メロディ、シエスティーナ様とオリヴィア様もカウントダウンへ参加してくれるって! そろそろ時間よ。さあ、皆さん、行きましょう!」
「あっ、お嬢様、危ないです!?」
「おっと」
ルシアナに手を引かれ、メロディはティーカップを落としそうになった。隣にいたレクトがティーカップを受け取り、難を逃れる。楽しげなルシアナはそんなやり取りに気付いていなかった。
ハイテンションなルシアナの後ろ姿を、しばしポカンとした顔で見送るシエスティーナとオリヴィア。二人は再び顔を見合わせると、思わず笑ってしまった。
「行こうか、オリヴィア嬢」
「はい、シエスティーナ様」
勢いよくメロディを引っ張っていくルシアナと、慌てて後を追うレクト。彼らとは対照的に、シエスティーナとオリヴィアは優雅な足取りで舞踏会会場へ戻っていくのだった。
◆◆◆
メロディ達が集合場所に到着すると、既に全員が集まっていた。
みんなが暖かく出迎えてくれる中、マクスウェルが前に出る。
「やあ、おかえり。メロディは見つかったようだね」
「はい、おかげ様で。ハウメア様はいらっしゃらないのですか?」
「母はご友人とカウントダウンをするそうだよ。子供は子供同士で楽しみなさいだってさ」
「むぅ、ハウメア様にとっては私達なんてまだまだ子供なんですね」
「ふふふ、そうだね」
クスクスと笑うマクスウェルとルシアナ。ベアトリス達とアンネマリーに、シエスティーナとオリヴィアも加わって楽しい会話が始まる。
既にダンスの時間は終わったようで、ダンスホールを囲むように人が集まっていた。
正面には国王夫妻が席に着き、隣にはクリストファーの姿もある。その近くには大型の柱時計が設置されており、時計の針はもうすぐ真夜中を迎えようとしていた。
ホール内では筆頭魔法使いスヴェン・シェイクロードほか数名の魔法使いが集まって、床に何やら魔法をかけているようだ。ダンスホール全体に大きな魔法陣が描かれている。
「あれは何をしているんでしょう?」
「さあ。何かの催しだとは思うが」
思わず疑問を呟いていたメロディにレクトが返答するが、彼もよく分からないらしい。それは周囲の人達も同様で、何が始まるのかと疑問を口にしていた。
(これから魔法で何かするんだろうけど、一体何を……あっ)
ダンスホールに視線を向けていると、メロディ達とは反対側にセレディアの姿を見つけた。隣にはクラウドもいる。それに気付いたとき、ふとセレディアと目が合った。
((あっ))
メロディはニコリと微笑むと小さく手を振った。
セレディアは気恥ずかしそうに目を泳がせるが、すぐにはにかんでみせる。クラウドにも声をかけ、彼とも目が合う。クラウドは優しげに微笑んだ。
(な、なんだか恥ずかしい……かも?)
今度はメロディの方が気恥ずかしくなって、はにかみながらもう一度手を振った。その様子に気付いていたレクトが、メロディを優しげに見つめていることに彼女は気付いていない。
やがて準備が終わったのか、魔法使い達がダンスホールから姿を消す。そして、司会の男性が大きな声を上げた。
「それでは本日最後のダンスを行います。ラストを飾るのは我らがテオラス王国の至宝。国王陛下ご夫妻です!」
ダンスホールに拍手が響き、国王夫妻が席を立った。クリストファーを残し、二人はダンスホールの中央へと足を運ぶ。
(……あれだったらクリストファー様もこっちに来ればいいと思っちゃうな)
一人席に残されるクリストファーが何となく寂しげに見えて、メロディはそんなことを考えた。
ダンスホールの中央で向かい合う国王夫妻。音楽が鳴り始め、二人が踊り始めた。
司会の説明によれば、国王夫妻のダンスが終わる頃に真夜中に達し、新年を迎えることになるらしい。
メロディ達はしばし、国王夫妻の優雅なダンスを鑑賞することになった。美しい音楽とダンスを楽しんでいると、床の魔法陣が淡く光り始めた。
「あれは……」
ぼんやりと地面が輝き、やがて小さな光の粒が立ち上り始める。
赤色、青色、緑色など、虹のような全部で七色の粒だ。大きさは飴玉くらい。それらがゆっくりと地面から浮かび上がっていた。
周囲から感嘆の声が漏れる。
ふわりふわりと浮かぶ光の粒。思わず手を伸ばす者もおり、触れた瞬間、光の粒は小さく弾けて消えてしまった。
「きれい……」
それは誰の声だったか。そんな呟きがそこかしこで聞こえ始めた。
メロディも美しい光景に目を輝かせ、隣のレクトに尋ねた。
「幻想的ですね。毎年こんな催しをしているんですか」
「いや、こんなのは初めて見た……本当にすごいな。でも、どこかで見たような気も」
「え? こんなすごいのどこで見たんですか。お嬢様は分かります?」
「私も分かんない」
ルシアナは首を横に振った。レクトは腕を組みながら首を傾げる。見覚えがあるような気がするが、よく思い出せない。
それに答えてくれたのはベアトリスだった。
「あれでしょう? 春の舞踏会でルシアナとセシリアが踊った時にあった演出。ダンスホールいっぱいの光の粒が広がって、すごく綺麗だったわ」
「「ああっ!」」
メロディとルシアナは納得の声を上げた……と、なったところでメロディは慌てて口元を押さえる。メイドとして屋敷にいたはずのメロディは、知らないはずの出来事だからだ。
「前は一色だったけど、今回はたくさん色があってこれも綺麗ね。でも、夏の舞踏会ではなぜやらなかったのかしら?」
疑問を口にするベアトリス。そこにアンネマリーがやってきた。
「春の舞踏会の演出、誰がやったのか分からないそうよ」
「アンネマリー様! 分からないって、王城で手配したんじゃないんですか?」
「どうも違うそうよ。王妃様のお気に召してもう一度見たいと仰ったのだけど、誰もその演出について知らなかったんですって。不思議な話よね」
春の舞踏会ではビューク・キッシェルによる襲撃事件が起こり、王城は当然そちらにかかりきりとなってしまった。王妃がダンスの演出について語り出したのは最近のことらしい。
感心するベアトリスの隣で、ルシアナが疑問を口にした。
「それじゃあ、この演出はどうやっているんですか?」
「わたくしとクリストファー様で、学園舞踏祭の夜空に使った魔法があるでしょう? あの魔法を王城の魔法使いに教えて、それを応用して演出を再現する魔法を作ったのよ。わたくし達では一度に一色しか作れなかったけれど、複数の魔法使いが協力することで七色まで作れたみたい」
アンネマリーの説明に、メロディを含めた全員が感心した様子でダンスホールに目を向けた。
美しい音楽と、煌めく光の中で踊る国王夫妻の光景はとても幻想的で、舞踏会の参加者達は時が経つのも忘れてダンスに見入っていた。
やがてダンスがそろそろ終わりを迎えそうな頃、司会が大きな声を発する。
「真夜中を告げる時計の針が残り一分になった時から、カウントダウンを始めます。皆様、ご一緒にお願いします!」
おそらくカウントダウンと同時に、国王夫妻のダンスも終わるのだろう。
込み上げてくる期待感とともに、カウントダウンが始まった。
「新年まで、六十! 五十九! 五十八!」
ダンスもラストスパート。音楽の曲調が速くなり、合わせるように二人のダンスもテンポが変わった。呼応するようにカウントダウンをするメロディ達のテンションも上がっていく。
「三十! 二十九! 二十八! 二十七!」
(すっごく、ドキドキする……!)
一斉にカウントダウンをすることで生じる不思議な一体感で、メロディの気分は高揚していた。ちらりと隣を見れば、ルシアナ達が恥ずかしげもなくカウントダウンを叫んでいる。
反対側ではレクトが少し頬を赤くして声を出していたが、目が合うとさらに真っ赤になって声を張り上げた。
(私も負けてられない!)
「十! 九! 八! 七! 六!」
音楽が締めくくりに入った。
最後を飾ろうと、国王夫妻は美しいターンを披露する。
「五! 四! 三! 二! 一!」
そして――。
「ゼロ!」
――カウントダウンは終わった。
その瞬間、ダンスホール内に広がっていた全ての光の粒が一斉に弾け飛んだ。新しい年を祝福するような光景に全員が息を呑む。そして、国王の大きな声が舞踏会会場に響き渡る。
「新年、おめでとう! テオラス王国に祝福あれ!」
「「「「「新年、おめでとうございます!」」」」」
国王の声に呼応し、拍手喝采を鳴り響かせながら新年を言祝ぐ声が会場を埋め尽くした。ダンスホールの中央に立つ国王夫妻が手を掲げ、さらに参加者達のテンションは上がっていった。
メロディもまたその光景に圧倒され、拍手を続けていると両隣から声を掛けられた。
「メロディ! 新年、おめでとう!」
「メロディ。新年、おめでとう」
拍手にも負けない明るい声で告げるルシアナと、恥ずかしそうにしつつもよく通る声で伝えてくるレクト。メロディは二人を交互に見つめ、笑顔を浮かべて言った。
「はい! 新年、おめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね!」
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