嘘だろ
「んな、泣きそうな顔すんなよ」
寝そべった状態で片肘を立てて、俺を見下ろすショウヤの目があんまり優しすぎて。
くっそう。
「泣いてなんかねえっ!!!」
俺はショウヤの両方のほっぺたを摘まみ返そうと手を伸ばす。
が、いかんせんリーチの差が大きすぎる。
「ほらほら。もっと食って大きくならねえと、俺に手も届かないぜ?」
まるでライオンと猫だ。
ショウヤは俺のほっぺたから離した手で、俺の額をギュウッとホールドした。
「いでででででっ!!くそうっ!離しやがれ!!!」
その時だった。
ドンドンドンと、ドアをぶち破らんばかりのノックの音が響き渡った。
「んんん~?誰だ~?」
ショウヤの手が緩んだ隙に、俺はドアまでダッシュした。
ドアを開けると、そこにはリクの姿があった。
「あっ!アキ!大変な事になってるんだ!事務所まで来て!」
いつものんびりまったりしているリクからは想像できないようなテンションだった。
リクは目を丸くする俺の手をぎゅっと握り、俺の後ろに向かって叫んだ。
「ショウヤも服着たらすぐ来てね!」
服?
何気なく振り返った俺は、激しく後悔した。
ショウヤ。
パンツくらい履いて寝ろ……。
どうやら俺は事務所の上の部屋で寝ていたらしい。
ぼろい階段を下りると、電話の音が耳についた。
なんだ?
なんで出ないんだ?
複数の電話の音が入り乱れて聞こえている。
誰もいないのか?
首をかしげながらリクに手を引かれて事務所に入ると、そこにはPuzzleのメンバーと、昨日は見かけなかった事務所社長の姿があった。
「?なんで電話に出ないんすか?」
なぜかパソコンを囲んで難しい顔をしているメンバーが、俺の声に一斉に顔を上げた。
「アキ」
「アキだ」
「アキ~」
えっ!?
なになに!?
俺が女だって、ようやく気が付いた!?
「凄いよアキ。俺たち、解散しなくていいかも知れない」
ツヨシが俺をパソコンの前に呼び寄せた。
俺は言われるまま、パソコンの画面を覗きこんだ。
「……これって」
そこに映し出されていたのは、昨日のライブの動画だった。
「誰かがこっそり撮ってたんだろうね。それでこの動画サイトに投稿した」
画面の中では俺がおっきな口を開けて歌っていた。
なにこれはずかしすぎるんですけど。
「注目するのはこのコメントだ」
「コメント?」
俺はツヨシに言われるまま、表示された文字を目で追った。
『昨日のPuzzleのライブ、マジヤバい』
『ていうか、あのちっこい子だれ!?』
『可愛すぎる!でも凄い声』
『次のライブの予定知りたい!』
次々現れる賞賛の声。
俺の顔が徐々に引きつっていくのが自分でも分かった。
最初で最後だから、引き受けたライブ。
なのに、こんな形で映像に残ったら。
「まあさあ。そんな訳で、アキちゃん。社長室でお話しようか~?」
そう言ったのは年齢不詳、胡散臭い笑顔を張り付けた事務所の社長だった。




