打ち上げその後
「ほんっとうに、気持ち良かったね~」と、ヨウタが笑う。
「久しぶりに燃え尽きた~」と、リクがグラスの中身を一気に飲み干した。
「いい終わり方だった。ありがとう、アキ」と、ツヨシがグラスを俺に掲げる。
俺はというと、何とも言えない高揚感と、溢れだしそうな充実感というのだろうか。
とにかく、経験した事のないような感覚が体中に満ち満ちていた。
けど、気がかりなのはやっぱりPuzzleの今後だ。
こいつらはこれからどうするつもりなんだろう。
「なあ、お前らどうするの?ほんとにPuzzleは終わるの?」
俺はグラスの中のジンジャーエールをぐいっと飲み干して誰にともなくつぶやく。
「もうそれはいいんだ、アキ。俺たちは満足してるんだ」
隣に座っていたショウヤが俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「これまでも俺たちは色々あった。アイドルグループだった七人が五人になって、居場所を失くして、這い上がったと思えば、またそれも失って。それでも音楽を捨てようとは思わなかった。捨てられなかった。俺たちももう二十歳を超えて、アイドルは難しいって分かっている。けど、これからも多分俺たちは音楽は捨てられない。Puzzleがどういう形になろうとも、な」
「そっか。そうだな。音楽はどこでもできるもんな」
「そういうこった。ほら、遠慮せず食えよ。食わねえとちゃんと大きくなれねえぞ」
ショウヤはそう言うと俺の口にでっかい唐揚げを突っ込んだ。
「アキ」
目を開けると兄貴がいた。
いつもと同じ、俺だけに見せる柔らかい微笑みを浮かべて。
「兄貴っ!!」
俺は迷わず兄貴の胸に飛び込んだ。
なんで、どうして、なにがあったんだ、聞きたい事はいくつもあった。
けど、今は、兄貴がこうしていてくれるだけで、俺は満足だった。
「あにきあにきあにき」
俺は兄貴の胸に顔をこすりつけて、そう言い続けた。
兄貴が俺の頭をゆっくり撫でてくれる。
「ごめんな。アキ。ごめんな」
「いいよ。もういい。兄貴がいてくれるだけで、俺はいいから」
「うん。もうどこにも行かないから。アキ、泣くな」
ポンポンと背中を叩かれるうちに、俺は眠りの中に沈み込んでいった。
目を開けると涙が溢れた。
泣いてたのか、俺。
そういや、なんでこんなに体が重いんだ?
俺は無意識にそれを払いのけようともがいた。
「ううん」
耳のすぐそばで聞こえる低音。
え?
そういや、昨日兄貴が戻ってきたような……?
でもこの声。
兄貴じゃない?
俺はまじまじと目の前の物体を見つめた。
目の前に広がる肌色一色。
胸だ。
胸?
俺の顔からもんのすごい勢いで血の気が引いた。
俺の目の前にあるのは、どう見ても裸の男の胸だ。
恐る恐る、視線を上に向ける。
「ショウヤ~~~~~!?」
見上げた先には至近距離のイケメンの顎先。
なになになに!?
どうなってんの!?
俺、昨日は、えっと、Puzzleのライブに参加して、メシ食って、そんでなんか盛り上がって……。
記憶がない……。
酒を飲んだ訳ではない。
俺は未成年だし、Puzzleのメンバーはそういう事にはうるさい。
来月二十歳の誕生日を迎えるヨウタも、酒は飲んでいなかった。
きっと脳内なんとかが出たんじゃないだろうか。
滅茶苦茶みんなハイになって、ライブの後だっていうのに、カラオケ行って、騒いで……。
なんで俺はショウヤの腕枕で寝てんの~~~~!?
「うううううう。うるせえ。もう少し静かに起こせ」
「ねえねえねえねえ!!ショウヤ!!ショウヤ!?なんで俺たち一緒に寝てんの!?なんでショウヤ服着てないの!?俺たちなんか間違ってないよね!?ショウヤ~~~!!」
「むううううう」
ショウヤがゆっくりと体を起こした。
片手で頭を支えて、悠然と俺を見下ろすショウヤ。
寝ぼけてんのか!?
なんでそんなに余裕のある顔をしてやがる!?
ショウヤが服を着ていたら、俺はきっと奴の衿首を掴んでその頭を思いっきり揺さぶっていただろうに。
「なあに騒いでやがるんだ~?お前、寝起きからそんなテンション高い派?じゃあお前とはもう寝れないな~」
「なに呑気に寝起きの心配なんかしてんだよ!?」
「大体間違いって何だ?俺は男には興味ねえから。それにお前ちゃんと服着てんだろ?」
「え?あれ?」
俺は慌てて自分の体を見下ろした。
パーカーこそ脱いでいるが、昨日と全く同じTシャツにダボダボズボン。
うぉぉぉぉ!!!
俺の貞操は守られた!!
「っていうかお前、いつもミチルと抱きあって寝てんの?夜中あにき~って言って抱きついてくるから暑苦しくってさ~」
「……」
夢、だったのか。
そっか。
そうだよな。
黙りこんだ俺のほっぺたをショウヤはムギュウッとつまみ上げた。




