俺の兄貴
俺の兄貴はなんと、現役アイドルグループの一員だ。
五年前、中学を卒業した兄貴は、決まっていた高校進学を蹴って、それまで何の興味も持っていなかったはずの芸能界に飛び込んだ。
俺の兄貴、山村ミチルは、俺が言うのもなんだが、滅茶苦茶イケメンだ。
色白の整った王子様顔。
それは時には冷たいと感じるほどの美貌だけれど、くしゃりと笑った時の顔は子供のようで。
ギャップ萌えって言うんだろうな。
とにかくデビュー当時から女の子のファンが凄かった。
兄貴の所属するアイドルグループの名前はPuzzle。
ツインボーカルのバンドを組んでいて、兄貴がメインボーカル。
もう一人のボーカルと、ドラム、ベース、リードギターの計五人で構成されている。
俺は半年ぶりに、兄貴に会いに、Puzzleの所属する事務所に足を運んでいた。
「相変わらず、ぼろっちいんでやんの」
事務所のビルの前に立ち、俺は思わずつぶやいた。
この芸能事務所は、知る人ぞ知る、知らない人の方が圧倒的に多い弱小事務所である。
唯一、Puzzleは全国レベルの知名度があるが、他に数名いるタレントは、ほぼ毎日アルバイトに励んでいるのが現状だ。
その稼ぎ頭であるPuzzleが、芸能界から姿を消して、早半年。
前に俺がここに来たのは、小学校を卒業した時だったから、もう三年になるのか。
「ちわ~っす」
受付も何もあったもんじゃない。
ビルに入るとすぐに事務所のドアがあり、俺はノックもせずにヒョコッと半開きのドアから顔を覗かせた。
「ん?なに?お通夜?」
思わず口に出てしまうほど、その場の空気はどんよりとしていた。
部屋の手前にある、古ぼけた黒い革のソファーに、Puzzleのメンバーが座っている。
なぜ、みんな揃って頭を抱えてるんだろう。
それに、兄貴の姿も見えないし。
ふ、とメンバーの一人が顔を上げた。
Puzzleの癒し系、リードギターのヨウタだ。
「え?君、アキくん?」
ヨウタの声に、メンバーが次々顔を上げる。
「アキ?ミチルの弟の?」と、ドラムのツヨシ。
「おう。アキ。久しぶりだな」と、ボーカルのショウヤ。
「相変わらず、ちっせいな。ちゃんとメシ食ってる?」と、ベースのリク。
ちっせいって、そりゃあんたたちに比べたらちっせいだろうけど、百六十五はあるんだぞ。
女にしたら結構大きい方なんだぜ。
っていうか、今ミチルの弟って言わなかった!?
「みんなで雁首そろえて、なにお通夜してんの?兄貴は?」
俺を見て一瞬明るくなった顔が、一斉にどんよりと暗くなった。
なんだなんだ?
やっぱ、これって兄貴のせいなのか?
思わず挙動不審になる俺の耳に、信じられない言葉が聞こえてきた。
「アキ。お前の兄貴は、失踪した」




