俺の日常
「山村アキ~~~!!!」
うおっと!!
久しぶりに登校したら担任が凄い顔で駆け寄ってきて、俺は慌てて踵を返した。
「くぉらぁあああああ!!!逃げるなあああああ!!!」
あと一歩のところで俺はジャージの衿を引っ掴まれる。
「うわわわわっ。ごめんなさいっ!!許して!!」
必死でもがくが、残念ながら俺はそのまま生徒指導室に連れ込まれてしまった。
「あのなあ、ほんっと、どうすんだよ、お前」
机をはさんで俺と向かい合った担任が頭を抱えて言った。
「公立高校の二次募集も終わっちまったし、就職ったって、いまどき中卒の募集なんてホントないんだぜ?しかもお前やる気なさそうだし、そんなんじゃどこも拾ってくれないぞ」
「ああ、う~ん」
「自分の事なんだぞ!?」
「う~ん」
「なんかさ、やりたい事とかないの!?小さい頃から憧れてた職業とかは?消防士とか、警察官とか、そうだ!バスの運転手とかどう!?」
「どうって……」
それってどれも男の職業っぽくない?
いや、女でもできる事だけどさ。
先生、俺の性別無視?
どっちにしろ、俺に将来の夢なんてものはないんだけどさ。
「お前、ダンスとか得意だったよな?文化祭でも踊ってたっけ。あれ、結構評判良かったよな。兄貴の事務所で雇ってもらえないのか?つーか、兄貴とはまだ連絡とれないの?一応お前の保護者なんだから、今後の事について話したいって何回も言ってるだろ?」
「あー、すんません~。ご承知の通り、兄貴は今活動自粛中でして~」
「だったら、都合つきやすいじゃねえか」
「それが、放浪の旅に出ちゃって」
「はああああ!?あいつ、お前と一緒にいるんじゃねえの!?じゃ、お前、一人でアパートにいるって事!?」
「まあそうですねえ。あはは」
担任は、はああああっとため息をついて机に突っ伏した。
「俺、それ聞かなかったことにするわ。とにかく、卒業まで一か月を切ってるんだからな?俺が面倒見てやれるのも、それまでなんだからな?」
やっとの事で担任から逃げ出した俺は、すっかり教室に入る気を無くしていた。
やっぱ帰ろっかな~。
そう思いながら廊下を歩いていると、下級生の女の子たちが俺を見つけてキャーと手を振った。
なぜだか俺は女の子に人気がある。
女の俺にとって、それは喜ぶべき事なんだろうか、ちょっと疑問だけど、嫌われるよりは全然いい。
小さい頃から、俺は女の子の格好をした事がない。
着るものは兄貴のお下がりばかりだった。
一度だけ、女の子の洋服を着た事があったけど、あまりの違和感に二度と着ないと心に誓った。
そんな俺にとって、中学の制服は拷問以外の何ものでもなかった。
しかもセーラー服って。
俺は入学式を断固拒否し、翌日からジャージを貫いた。
そんな俺に先生たちはいい顔をしなかった。
元々勉強嫌いだった俺の足は学校から遠のいて、今に至る。
高校に行きたいとも思わないし、行く学力もない。
将来の夢なんてものも、持った事もない。
は~、ほんと、俺、中学卒業したらどうしよう。
そんな事を考えていると俺の携帯が震えた。
「お、兄貴」
噂をすればなんとやら。
兄貴からの一カ月ぶりのメールだった。
『明日、四時に事務所に来て ミチル』
それに了解と返信して、俺は学校をあとにした。




