終演~始まりの場所
「はーい、そろそろスタンバイお願いします」
「はい、アキさん。マイク」
「じゃ、アキ、向こうでな」と、ツヨシが俺の背中をポンと叩いて歩いていく。
「あれ、なんか微妙な顔」と、ギターを持ったヨウタ。
「緊張してるの?珍しい」と、リクがニヤニヤしながら言う。
渡されたマイクを握りしめ、仁王立ちになっている俺に、みんな好き勝手な言葉を投げかける。
「うるさい。早くスタンバイしろよ」
低く唸る俺の頭を、ヨウタがポンポンする。
「だ~いじょうぶ。いつも通りで」
「分かってるから」
視線でちゃんと並べよ、と伝える。
俺自身、ナーバスになっていると自覚している。
けど、自粛開けの初ライブ。
しかも、全国ツアーの初日のドーム公演。
緊張するなと言われても、無理だろ。
俺がビルの下に集まるファンに向かって歌ってから、三か月が経っていた。
ビルの下の観客は増え続け、マスコミの取材がやってくるまでの騒ぎになった。
その結果として俺の芸能界復帰と、例の曲のシングルリリースが決定した。
そして、棚上げになっていた秋の全国ツアーが実現する事になった。
ちなみにツアーの名前は『懺悔ツアー。全国各地めぐります』だ。
予定されていた公演の数を大幅に増やし、半年かけて全国を回る事になった。
歌えるのはうれしい。
けど、特にツアーの初日は、本当に不安だ。
昨日の夢では、オープニング、歌いながらスモークを抜けてステージに出たら、広い会場に誰もいなかった。
怖い。
怖すぎる。
ステージ裏に伝わる会場のざわめきから、そんな事はないと分かってるけど、やっぱり幕が開くまでどうしようもなく怖いもんだ。
「アキ」
俺の隣に立つショウヤが俺の肩に手をかける。
「なんだよ」
まだ何を言う気だ?
俺はショウヤを軽く睨む。
ショウヤは俺のほっぺたをぎゅうっとつまみ上げた。
「いでででで。なにすんだよ!」
「緊張しすぎ。よく聞いてみろよ」
「聞く?」
俺はほっぺたをさすり、耳を澄ませる。
「「「「……アーキ、アーキ、アーキ、アーキ……」」」」
俺の耳に飛び込んできたのは、会場中を震わせるようなアキコール。
「ほらな、pieceはお前を待ってるんだ。自信持っていけ」
ショウヤが俺の背中をどんと一つ大きく叩いた。
俺はそれに大きく頷いて、正面をぐっと睨む。
俺のアカペラで始まる一曲目。
オーケーの合図を受けて、俺は大きく息を吸い込んで大きく一歩を踏み出した。
俺を待ってくれている場所へと。
俺が待ち望んだ場所へと。
その日のライブの最後、俺は初めてメンバーのみんなと抱き合った。
……ほっぺにキスとかは、絶対ムリだからな!
~終演
これにてアキのお話はおしまいです。
夏の日のように、ただ好きな事に突っ走っていく、そんなお話でした。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。




